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(もうぬるくなってきたな)
悠醐は一葉が火傷をした足の甲から氷を離し、視線を上げる。
するとベッドの上に座っていた一葉が、申し訳なさそうにこちらを見ていた。
「しばらく冷やすから、君は先に寝てろ」
「え、でも……! 悠醐さんも疲れてますし」
「君が寝たら部屋を出て行く」
はっきりと告げると一葉は戸惑った表情を見せたが、やがて静かに目を閉じた。
ほどなくして、規則的な寝息が部屋に満ちた。
悠醐もそっと目を閉じる。
指先から伝わる、彼女の体温。部屋に充満する、彼女の香り。
静かな空間は、五感がいつも以上に研ぎ澄まされる気がする。
(は、気持ち悪い)
苦笑しながらもう一度目を開き、視線を横に向けた。
一葉の華奢な体が、吐息とともに微かに上下し、小動物のように見える。
一葉は普段より、小動物っぽい。驚くと大きく目を見開いたり、体全部を使って跳ね上がったり。優しく包んでやらないと、潰れてしまいそうな脆さまで。
そのすべてが、悠醐の眠っていたはずの性的な本能を刺激した。
悠醐はすでに一葉の心の美しさも、体の素晴らしさも知っている。
透き通るような白い肌の滑らかさ。わずかに開いた唇はふっくらと弾力があり、長い睫毛が涙に濡れたとき、きらきらと輝くことも。
指先を、ほんの少し伸ばしかけ、ぐっと拳を握った。
(触れたい)
踏み込めば、戻れなくなるとわかっているが、限界が近い。
抑え込んできた想いが今でも溢れそうになるのを、日々感じている。
(だからあんな言葉が出たのかもしれないな)
『そんなの、いつだってできるだろ。俺たちは夫婦なんだから』
そう告げたとき、一葉は驚きと、戸惑いを露にした。
彼女がそうなるのは、無理もない。本来は、契約で結ばれた関係に過ぎないのだから。

