孤高の心臓外科医は、憎しみの元恋人を熱情で囲い込む


舌に触れた瞬間、濃厚な旨味がじんわりと広がっていった。
味噌のコクの奥に、ほんのわずかな甘みと出汁の深みが重なっている。久しぶりに感じる彼女特有の味だ。

(一葉は、まだ覚えていたのか)

ふいにそんなことを思ってしまい、内心で舌打ちする。
具材に箸を差し入れると、やわらかく煮含まれ、味噌の旨味をたっぷりと吸い込んだ茄子が、顔を覗かせた。

昔――ふたりが半同棲していたときのことだ。
悠醐が一葉にわがままを言い、好物だった茄子を入れてもらってから、彼女は必ずみそ汁に入れるようになった。

(仕方ないといって、入れてくれるようになった)

一葉は少し前に、悠醐に食事を用意しようとしてくれていた。もしかしたらそのときも、このみそ汁を作っていてくれたのかもしれない。

そう考えると、悠醐は無性に胸を掻きむしりたくなった。

「美味いな」

一葉が一生懸命作ったみそ汁というだけで、悠醐にとっては天下一品なのだ。
 結局三杯もおかわりしてしまい、鍋の中のみそ汁は見るからに減ってしまった。

(一葉に飲んだことを知られるのは気まずい。このまま気づかずにいてくれるといいのだが)

そう考えた悠醐は急いで食器洗いを始める。彼女が出先から帰ってくるまでに、完全に証拠を隠滅していたら問題ないだろう。
すべて洗い終わり、あとはナフキンで食器を拭くだけになったそのとき。
遠くでがちゃりと扉の施錠が解かれる音が聞こえて、悠醐の肩が跳ね上がった。

「……あ、悠醐さん⁉」