その一声に、一葉の意識が戻った。
感情のない目の一葉の手を、工藤は興奮気味に自分の胸に手繰り寄せる。
「得体の知れない人よりも、僕なら君を確実に幸せにできる。医者の妻という座はもちろん、将来は院長の奥様だって、夢じゃないんだよ! 篠宮ちゃんの夢は、全部――」
「やめて!」
気づいたら、一葉は店内に響くほどの大きな声をあげていた。
「かずは、ちゃん……?」
驚いて目を瞬かせる工藤を、一葉はキッと睨みつける。
「わたしは、悠醐さんを愛してるの! 何も知らない人が、わかったような口、聞かないで!」
息を荒げる一葉を、工藤は茫然とした目で見る。
すると突然、ばんっと勢いよく大きな手がふたりの間に置かれたテーブルを叩いた。
(え……?)
おそろおそる、顔を上げる。噂の中心にいる悠醐だった。
「工藤先生、私の妻に近寄るなと、以前忠告したつもりでしたが」
「五十嵐、先生……」
悠醐の冷え冷えとした表情に、工藤は肩を震わせる。
「一葉、行くぞ」


