元々院内でも人気の高い工藤だ。一葉の腕を掴んで院内を突っ切る彼を、皆見ている。
(どうしよう。こんなところ、悠醐さんに見られたら……)
妻として失格だと思われるに違いない。
だが心身ともに疲れきっていた一葉は工藤に抵抗する力は残っていなかった。
ただその力強い腕に引っ張られ、病院に併設されているカフェに入った。
ちょうど目まぐるしくシフトが変わる時間とあり、誰もいない。
向かい側に座った工藤は、あたりを見渡してから、真剣な目で一葉を見据えた。。
「篠宮ちゃん、五十嵐先生との結婚生活、上手くいってるの?」
唐突に確信をつかれ、一葉は言葉に困る。
「そ、それはいったいどういう……」
工藤は苦い表情をする。
「毎日無理して笑って。似合わないブランドの服なんかきて、全然幸せそうじゃないから」
工藤の発言に、一葉の胸がずきりと音を立てた。
一番他人に指摘されたくなかったこと。そして認めたくなかった。
「きっとあの人に何か脅されてるんでしょ? お父さんの主治医だったよね、たしか」
工藤はわかったような口調で話を続ける。
「……篠宮ちゃん、今すぐ別れた方がいいよ。五十嵐先生の趣味の悪いお遊びに付き合わされているだけだって! 君は愛されているんじゃなく、飼い殺しにして最後はこっぴどく捨てる気でいるんだよ。僕、院長から聞いたんだ。君のお父さんと、彼の因縁についてね……五十嵐先生は、君のお父さんを恨んでいるから……」
「…………」
工藤の言葉が、途中から聞こえなくなった。
彼は、きっと自分のことを心配して忠告してくれているのだ。それは頭ではわかっている。だが――悠醐と一葉のすべてを見ているわけではない。昔、本気で愛し合ったことも。彼の幸せを思い、身を引いたことも。彼が、プロポーズしてくれたことも。
孤独を分かち合ったことも。
何も知らない部外者に、この契約結婚をとやかく言われる筋合いはないはずだ。
「だから、あんなやつじゃなくて。僕をちゃんと見てよ」


