孤高の心臓外科医は、憎しみの元恋人を熱情で囲い込む


胸にちくちくと針を刺すような痛みが走る。流れ出す血は、見えないが代わりに一葉の涙となって流れた。

(好きだから、つらいな)

思っていたよりも、一葉にとってこの契約結婚は心身ともに疲弊をもらたし過酷なものなんだと今になって痛感する。
もともと、悠醐の気持ちが晴れるならばと決めた結婚だった。
彼を傷つけた償いをこれでできるのなら……と。

だがこうやって、彼を嫌いになりきれないまま、冷え切った夫婦生活を続けたら、体よりも心が死ぬ気がしている。
病院では、悠醐の妻として品よく振舞う。彼の策略通り、一葉は医事課で一目置かれるようになった。無理に雑用を押し付けられることもなく、必要以上に医局に出向くこともなかった。

(すべて、変わったんだわ)

でも、悠醐に愛されていない以上、この空虚は埋まらない。

この日、一葉は悠醐に冷たくされ、一日中元気がでなかった。
なんとか仕事を終え、病院を出ようとしたそのとき背後から「待って!」と低い声に呼び止められた。

「工藤先生……!」

普段笑顔しか見たことがなかった彼は、いつになく険しい表情を浮かべている。
驚いてその場に足を止めた一葉の腕を、ためらいもなく掴んだ。

「やっぱり、見ていられないよ。ちょっと一緒に来てくれるかな」
「え……?」