孤高の心臓外科医は、憎しみの元恋人を熱情で囲い込む


場の視線が工藤から、一斉に悠醐へと集まる。

「カテコラミンの増量は妥当だと。ただ、その前に原因の切り分けができていないと思いますが」

一瞬、空気が凍るが、悠醐は気にすることなく、言葉を重ねた。

「心拍出量の低下を術後反応で片付けるのは危険です。循環だけ見ていると見落とす。心筋の回復過程を、もう一段階掘ってから判断すべきかと」

言い切ると、再び視線を資料へ落とす。

「五十嵐先生の意見に、反論のある方は」

進行役の声が響くが、室内は静まり返ったままだった。
そのままカンファレンスは終了した。

「五十嵐先生、先ほどはありがとうございました」

会議室を出ようとした悠醐に、工藤が歩み寄ってくる。

「自分では見えていなかった視点でした。もう一度、整理してみます」
「……そうですか。いい症例でしたね。詰めれば、もっと精度は上がると思います」

それだけ告げて、悠醐は会議室を出ようとした。だが。

「あの――」

背後から呼び止められ、悠醐は冷たい目で彼を一瞥する。

「五十嵐先生、篠宮ちゃんと結婚したって本当ですか」

こちらを見ている工藤は、まったく笑っていない。

(なるほどな)

以前から、一葉に対する距離の詰め方が気にはなっていた。この様子を見る限り、ただの興味ではないだろう。

「ええ。そうですが何か」

微笑んで見せると、工藤の表情があきらかに歪んだ。
工藤は動揺を落ち着かせるように息を

吐く。

「どうして……? あなたは、この病院に赴任したばかりですよね」

悔しさの滲む声音に、悠醐は笑いを堪えた。

(残念だったな)

この結婚は自分にたかる女(むし)と、一葉に近寄る男(むし)への威嚇も兼ねている。

悠醐はふたりの結婚を邪魔をするものを、徹底的に排除すると決めていた。

「惹かれ合うのに、時間は関係ないと思いますが、いかがですか」

悠醐は左手でネクタイを整えながら、工藤に微笑みかける。

「もしかしてうちの妻に、変な気を起こしてます?」

悠醐の冗談めいた言葉に、工藤は激しく動揺を見せた。

「……失礼しました」

小さく頭を下げた工藤を残し、悠醐は踵を返した。

(一葉の前から、消えろ)





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