◆◆◆
一葉と別れた悠醐はその足で、夕方から行われるカンファレンスに、ぎりぎりで滑り込んだ。
(あの胸糞悪い時間を一刻も早く消し去りたい)
会議室の椅子に座った悠醐は小さく舌打ちをした。
残像に残るのは院長の人を見下すような笑みと、ヒステリックな清香の姿。
院長は悠醐が過去に、一葉の父親に医者としての未来を徹底的に潰されたことを知っている。だから悠醐が娘の一葉と結婚したことに、裏があるのだと思っているに違いない。
(奴隷にするとでも思っているのか。そこまでじゃない)
彼女への愛はない。普通の結婚でないのは間違いない。
だが彼女を飼い殺し、ゴミのように捨てようなんて考えは毛頭ない。
一葉に告げた通り、院長の娘と結婚することを避けるための結婚だ。ついでに、ウジ虫のようにどこからともなく湧いてくる〝表面だけを見た〟女性を排除するため――彼女の贖罪の気持ちを利用させてもらっただけ。
もちろん彼女だけ損をするのだけはフェアじゃないだろう。
だから生活費も面倒を見るし、必要なものはなんでも与えるつもりだ。あの男の借金の肩代わりも仕方ないが受け入れた。
悠醐はデスクの腕にタブレットを置く。その際に左手薬指の結婚指輪が一瞬光った。
(一葉のあの顔が嫌いだ)
怯え切った大きな瞳、恐怖を押し込むように固く結んだ唇。
付き合っている当時――彼女が憧れていた、ブランドの洋服もバックも、全部用意した。安物ではないリングも。
だが彼女は、まったく喜んでいる素振りはない。
未だに大切そうに首に付けている安物のネックレスも目障りだ。
あのときの〝弱い自分〟の方がいいと無言の圧をかけられているようで無性に腹立たしい。
(一葉はお人よしすぎる。あのクソ男の言いなりになって不幸へ堕ちているだけだ)

