悠醐に好意的に思う女性との対面は、いつも心臓に悪い。今も、五年前だって。
(粗相がないようにだけ、しないと)
仕事を終えた一葉は、まっすぐ四階にある院長室に向かう。
院長室の前に着いて少しして、心科から悠醐が合流する。彼は一日の疲れを感じさせないようなきりりと、精悍な佇まい現れた。
彼は一葉を一瞥すると、早々に院長室をノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
扉を開けた瞬間、空気がまた一度下がった。
院長室は、まるで高級ホテルのスイートルームのような静謐さを湛えている。
壁一面の大きな窓からは夕暮れの光が差し込み、重厚な木製のデスクや調度品に柔らかな陰影を落としている。
部屋の中央には、深いブラウンのレザーソファがゆったりと据えられていた。そこに腰掛けているのが、この病院の頂点に立つ男――京極茂雄。この病院の院長だった。
「やあ、五十嵐くん。今日はどうしたんだね」
「院長にご報告がありまして」
「報告……?」
背もたれに身体を預け、指先を組んだまま、こちらを静かに見据えている。その姿には、長年この大病院を仕切る威圧と、年長者の余裕が同居していた。
そして彼の隣。ソファの脇に控えるように、淡い水色のワンピースに身を包んだひとりの女性が立っていた。
肩よりも長い髪をまっすぐ垂らし、華奢な佇まい。
目力のある大きな瞳は、誰が見ても〝可愛い〟と形容するであろう。だがその表情には微笑みの欠片もない。
むしろ、張り詰めたように硬く、あきらかに刺すような視線を一葉に向けている。
(もしかして、この人が……)
一葉の喉が、ひゅっと鳴る。
院長の娘――清香だ。


