その場で大混乱が起きた。そりゃそうだ。この中でも特に男っ気がなかった一葉が突然結婚したのだから。すぐにどこからから「相手は誰⁉」と声があがる。
「相手は心科の……」
「一葉」
突然、低く艶のある声が医事課に響く。
そこにいたのは、先に家を出ていたはずの悠醐だった。彼は口元にかすかな笑みを浮かべ、温かな目で彼女を見つめる。
彼の甘い表情に悲鳴のような声があがり、一葉は圧倒された。
名医であり、俳優のように美しい悠醐が患者や看護師から大人気なのは知っていたが、今初めて彼の人気の高さを目の当たりにした気がする。
そして、彼がここまでして結婚を公表したがる理由も――。
「少し時間ができたんだ。今から報告しに行かないか。……あ、妻がいつもお世話になっております」
悠醐は一葉の同僚たちに、飛び切りの笑顔を向けて挨拶をする。
もうそれだけで、あたりは静まり返ってしまった。
「行こう、一葉」
「は、はい」
悠醐に無理やり連れ出され、すぐそばにいた主任に手短に結婚報告を済ませる。
急な報告に無礼を働いてしまったような気がしたが、悠醐の圧倒的なアイドルスマイルで黙らせてしまった。
挨拶が終わり悠醐と別れる直前、彼は一葉の耳にそっと唇を寄せた。
「夕方6時。仕事が終わったら、四階の院長室へ」
いつもの低く温度のない声に、胸の奥がぐっと痛む。
「わかりました。また」
なんとか、笑顔を作る。
だが悠醐は一葉の言葉に応えることなく、早々にその場を立ち去った。
一葉はその後、悠醐との仲を根掘り葉掘り聞かれる一日を過ごした。
素直に祝福してくれる者もいたが、大半の者から嫉妬めいた視線を向けられた。
今まで悠醐との結婚を切望していた院長の娘だって、絶対に良い気はしていないはずだ。
(どんな人なのか気になるけれど、怖い……)


