孤高の心臓外科医は、憎しみの元恋人を熱情で囲い込む



その破壊力のある名称に、一葉の心臓がどきりと大きな音を立てた。
動揺する一葉に構うことなく、そして中の指輪を確認する時間さえ与えないように、悠醐は無理やり彼女にそれを渡した。

「明日、院長と君の医事課に主任に結婚挨拶に行く。その際に、指輪を身に着けること。もちろん、仕事中も肌身離さずつけてほしい」
「わ、わかりました」

頭は混乱を極め、一葉はそう答えるのに精一杯だ。

(悠醐さんは、わたしたちが夫婦になったと、どうどうと公にするつもりなんだ)

悠醐はかすかにため息を吐く。

「尋ねられたら職場で俺の妻になったとはっきり伝えてくれ。群がってくる女たちは、諦めざるを得ないだろう」

彼のその言葉に、一葉の心がさらに冷えた。
悠醐にとって一葉は、院長との娘の縁談を断ること、そして近寄ってくる女性を遠ざけるための〝虫よけ〟でしかないのだ。頭でわかっていたものの、ここまで露骨だとショックが大きい。

「他に何か質問は?」

業務的に言い放つ悠醐を見て一瞬言葉に困ったが、一葉は震える唇をそっと開いた。

「あの、他にわたしがすることは、ありますか? 食事とか、掃除とか――」
「何もしなくていい。週の半分家政婦に夕飯だけ君の分も頼んである。掃除も週二回は来る予定だ。もし食べたいものがあれば、勝手にするといい」

すべて言い終えると、悠醐は一葉にブラックカードを差し出す。

「必要であれば使え」
「そんな……っ、五十嵐先生のカードを勝手に使うなんてできません」
「君は妻になった自覚がないようだな」

その声に怒りが滲んでおり、一葉は思わず息を詰めた。

「はっきり言わなくてはわからないか? 俺に恥をかかせないことだけを考えろと言ってるんだ。その〝五十嵐先生〟というのも、やめてくれ」

悠醐が言っている意味がわかるようでわからない。だが、今の自分では彼にとって不十分というのだけは、たしかだ。

「わかりました。ゆうご……さん」
「では行く。後は好きにしてくれ」