悠醐と契約結婚を交わした、わずか一週間度――。
一葉は、病院から車で二十分ほどの場所に位置する、高級低層階レジデンスを見上げていた。
ここは何を隠そう、悠醐が住まう家だ。
一葉はこれから、この家で名ばかりの夫婦生活を営むことになる。
持ち物は、最小限の洋服と下着だけ。
悠醐がすべて用意する話になっており、私物はほとんどない状況だ。
あれから病院を退院した父に、主治医である悠醐と結婚すること、そして実家のアパートを離れることを告げた。もちろん、悠醐が昔付き合っており、あのとき別れた男性だと、包み隠さずに。
プライドの高い父のこと――絶対に反対されると思っていたのに、拍子抜けするほど、まったく咎められなかった。「一葉を自由にする」と、一言言って、それ以上何も聞かなかった。
(五年前は、あれほど反対してたのに……)
あのときの父は自分ではなく、会社のことしか頭になかったのだと痛感する。
でも今になっては、関係ない。形は大きく変わったが、一葉が悠醐と結婚するという夢は叶った形になる。
愛されないとわかっていながら、心の片隅でずっと想っていた悠醐との結婚を喜んでいる自分もいた。
一葉はぎゅっと拳を握り、豪奢で天井の高いエントランスに入って行く。にこやかに笑うコンシェルジュに愛想笑いを浮かべた。
(いよいよだわ……)
住居者に繋がるインターホンを見つけると、震える指で一葉は最上階である五〇一とボタンを押す。
するとすぐに門が解除され、悠醐は無言で一葉を向かい入れた。
(笑顔、笑顔……)
エレベーターで到着し、新しい家のインターホンを押すと、がちゃっと音を立てて悠醐が出てきた。今日は髪はセットされておらず、無造作だった。だが、ぱりっとしたシャツを羽織り、質のよさそうなスラックスを履いている。出かける予定があるのだろうか。手にはに十センチくらいの大きさの、小さなブランドショッパーが握られていた。
「五十嵐先生、おはようござ……」
「中へ」


