孤高の心臓外科医は、憎しみの元恋人を熱情で囲い込む



低く落ち着いた深い声。彼に、また名前を呼ばれる日がくるなんて思いもしなかった。
それに、こんな姿をしても、彼は自分に気づいてくれたのだ。

(こんな状況なのにうれしいと思うなんて、間違ってるよね)

どれだけ嫌悪感からどれだけ冷たい態度を取られても、彼が何も言ってくれなくても。
再会できたという奇跡は、一葉にとって紛れもない喜びをもたらしていた。

その翌日のことだった。父の誠が目を覚ましたのは。
事務の仕事をしている最中に一方が入り病室に行くと、看護師ひとりと悠醐が誠のベッドを囲むようにして立っていた。

「あ、あの。お待たせしました」
「あ、娘さんですね。こちらへどうぞ」

集中治療室の病室にやって来た一葉を、看護師が笑顔で迎える。その横で、悠醐はいつものように冷ややかな目でこちらを見た。

「君の父親が先ほど目を覚ました。だがまた寝てしまったが、いずれ起きてくるだろう。血圧も安定しているし、このまま少しずつ回復してくるはずだ」

「……っ、よかった……お父さん、よかったね」

この一週間、目を覚まさない父親を見て、一生このままになってしまうのではと不安でたまらなかった。
諦めそうになる気持ちを奮い立たせ、毎日を生きていた分安堵が大きい。
一葉は込み上げてきた涙を指で拭い、ベッドの横に投げ出された細い父のをぎゅっと握った。

「ただし、不整脈も出ている」

不意に落とされた声に、一葉の肩がびくりと揺れる。
顔を上げると、悠醐はすでに一葉から視線を外し、手に持った電子カルテに視線を落としている。

「今回の心筋梗塞で、心臓の機能が落ちている。心不全の状態に近い。不整脈も少々」
「……不整脈、ですか?」

思わず聞き返すと、顔を上げた悠醐は父に向けて鋭い視線を送る。

「脈が極端に遅くなるタイプだ。このままだと、意識消失や再び心停止に至る可能性がある。今は薬でコントロールしているが、根本的な解決にはならない」

一葉は父の手を握る指先に、力がこもる。

「なので、ペースメーカーの植え込みをご検討願いたい。今の状態だと、一週間以内で行うのが最善の策だな」
「ペースメーカー……」

聞いたことはある。だが、それが自分の父に必要になるとは思ってもみなかった
悠醐から淡々と告げられる言葉に、一葉は唇をきゅっと結び、それから小さく頷いた。

「……分かりました。手術、お願いします」