一葉の鼓動がどくっと大きく跳ねる。
心臓血管外科の五十嵐というと、悠醐のことに違いない。
「もう、俳優さんみたいにかっこよくて、思わず立ち止まっちゃったわよ」
「わかるー! あの雰囲気、ちょっと異質っていうか……圧倒されるわよね。オペナースが本当に羨ましい」
「しかもこの前、外国人の患者さんとも英語で流ちょうに話していたし……さすが海外にしばらくいただけあるわって感じ」
看護師たちの会話に、思わず耳を傾けてしまう。心臓は速くなったままだ。
(みんな、やっぱり悠醐さんのこと素敵だと思うよね。それにしても……)
海外にしばらくいたとは、どういうことなのだろう。
てっきり、悠醐は研修医時代を過ごした大学病院に、そのまま就職したのだと思っていた。
途中、海外に拠点を移したのだろうか……。だが彼に嫌われている今、気になっても直接聞くことはできない。
「あれだけかっこよかったら、そりゃ狙うよね~」
「でもさ、院長の娘といい感じって噂、聞いたことない? 本当なのかな」
(院長の娘……?)
ぎゅっと、胸の奥が締め付けられた。
「本当らしいよ! なぜかしょっちゅう院長室に来てるみたいだし」
「そのときは、もちろん五十嵐先生も呼ばれるらしいよ。院長も相当気に入ってるみたいだしね~」
追い打ちをかけるように、看護師たちは悠醐の恋愛話に花を咲かせる。
一葉は無心で床をこすり上げた。
一刻も早く、この場から離れたい。悠醐と、見知らぬ女性の噂話など、これ以上聞きたくない。
(悠醐さんとわたしは、もうまったく別の世界で生きてる……)
奥歯を噛みしめながら、一葉はじっとその場をやり過ごした。
それから数時間が経ち、就業時刻である二十二時。
一階の外来用トイレの掃除が終わり、持ち場の地下一階のボイラー室に向かうため、廊下を歩いていると――。
薄暗い廊下に、はっきりと白衣の白が見えた。医師であろう男性がふたり、こちらに向かってきた。
(え……?)


