孤高の心臓外科医は、憎しみの元恋人を熱情で囲い込む


ただ、この大学病院の医療事務員として勤務している以上、安易に始められるものでもない。
そう考えた一葉は、真っ先に上司に相談することにした。彼女の事情は受け止められ、一度、可能かどうかも含めて院内で検討してもらえることになった。

そして、それからちょうど一週間後の月曜日。
一葉は、かすかに震える指をぎゅっと握りしめ、京極医科大学附属病院の地下階にあるボイラー室の中にいた。
一葉を囲むようにして、二十代から七十代までと幅広い年齢層の清掃バイトたちが、物珍しそうに彼女を見ている。
そう――一葉は無事に副業の許可を得たものの、院内規定により、提携している清掃業務に限るという条件付きだったのだ。

簡単な面接を経て、彼女は今日から勤務することになった。これから医療事務の仕事が終わった後、夕方から深夜帯にかけて働くことになる。

「は、初めまして……篠宮といいます。今日から頑張りますので、よろしくお願いします……!」

四十五度で深く頭を下げ、顔を上げる。
すると、清掃バイトのひとりである森下という七十代の男性が、一葉をまじまじと見つめた。

「掃除なんてしたこともなさそうなお嬢さんだが……雑巾の使い方は分かるかね?」
「えっ……」

思わず声を漏らした一葉に、周囲からも次々と声が飛ぶ。

「清掃は大変だよ? 手が荒れるだの、汚れるだの言って、若い子はすぐ辞めちゃうんだから」