孤高の心臓外科医は、憎しみの元恋人を熱情で囲い込む

「それに時間との勝負だ。ぱっぱっと動けるのかい?」

一気に質問を浴びせられ、一葉は思わずたじろいだ。
社長令嬢として育てられた彼女は、厳しい教育の影響もあって、どこか気品のある佇まいをまとっている。

透き通るような白い肌に、アーモンド形の大きな瞳。控えめに通った鼻筋と、小鳥のように小さな唇。
人形のように整った容姿は、ともすれば近寄りがたい印象を与えがちだった。

「あ、あの……実は私、掃除が大好きなんです! 今はまだスピードは皆さんに敵わないかもしれませんけど、すぐに追いつけるように頑張りますので……よろしくお願いします!」

はっきりとそう言って、もう一度大きく頭を下げる。
すると、ふう、と大きなため息が頭上から聞こえてきた。

「まぁ、とりあえず威勢がいいのは伝わったよ。じゃあさっそくだけど、各階のナースステーション奥にあるスタッフ用トイレと、当直室のシャワールームの清掃をお願いしようかね」

「あ……はい!」
「じゃあ、みんな。今日もよろしく。持ち場に行って!」

森下の合図で、一葉と森下以外のアルバイト八人が、一斉にボイラー室から飛び出した。
その動きの速さに、一葉は思わず目を見張る。時間との勝負とは、まさにこのことだ。

「ほら、ぼさっとしない! そこにかけてある雑巾と、清掃用具一式が入ったバケツを持って、わしについてきなさい!」
「しょ、承知しました!」

きびきびと歩き出した森下の後を、一葉は小走りで追いかけた。
この日の勤務は、夕方十八時から二十三時まで。医療事務を終えたばかりの身体には、決して楽な時間帯ではなかった。
だが、一葉は立ち止まるわけにはいかない。

(やるしかない……お父さんのために)