孤高の心臓外科医は、憎しみの元恋人を熱情で囲い込む


見舞いに通う分、勤務時間も削られるので、毎月、確実に赤字になるだろう。
唇を噛みしめる。普通のアルバイトでは、間に合わない。時間も、余裕もない。
短時間で、まとまった金額を稼がなければならない。
急いでやっても、副業は必須だ。絶望に肩を落とした、そのときだった。

「失礼します」

低く落ち着いた声で、背後から呼ばれる。 心臓が、どくん、と大きく跳ねた。

「五十嵐先生……」

白衣姿の悠醐が、颯爽と一葉の前に現れる。
だが、目が合わない。彼は誠の姿を見つめるばかりで、一葉に関心を向けていない。
今朝の夢からの落差に耐えきれなくなった一葉は、彼から視線を外した。

「まだ意識は戻っていないが、ひとまず、命に別状はない」

一葉はほっとしたが、続いて出てくる悠醐の言葉に体をこわばらせる。

「ただ、検査の結果、心筋梗塞の影響で心機能がかなり低下している。心不全の状態に加えて、重度の不整脈も確認された。今後、ペースメーカー、もしくはICD――電気ショックで心臓のリズムを整える医療機器の植え込み手術を検討しなくてはいけない。容態はまだ安定しているとは言い切れないから、急変のリスクを考え、しばらくは集中管理が必要だ」

「それって……」

一葉の声は震えていた。ふいに悠醐が振り返り、ようやく目が合った。

「長期入院ということだ。少なくとも一ヶ月以上はかかると思う。状態次第では、それ以上になる可能性も」

悠醐は感情のない声で、淡々と説明する。
だが今の一葉にとってはあまりに残酷な事実で、受け止め切れない。

「今は酸素管理と水分管理を行いながら、慎重に経過を見ていく。一般病棟へ移すのは、もう少し先になるが……当面は個室での管理になる」

「…………」

思いのほか父親の容態が悪いのがショックだったのと、長期入院が確定し、金銭的な不安が重くのしかかった。

「では、私はこれで」

悠醐はそう言い残し、結局一度も一葉を見ないまま立ち去った。
彼のそっけない態度に傷つくが、それ以上に入院費の問題が現実味を帯びてくる。

(今すぐ、副業を始めなくちゃ)