孤高の心臓外科医は、憎しみの元恋人を熱情で囲い込む


一葉はその日、医療事務の仕事を終えると、その足で父がいる集中治療室(ICU)へと向かった。
消毒を済ませ、ナースに案内されるまま中へ。一般病棟とは違う、独特の張り詰めた空気が漂っている。
四人部屋の一番奥のベッドに、父は寝かされていた。いくつもの管に繋がれ、口には酸素マスク。

胸には電極が貼られ、規則的な波形がモニターに映し出されている。ちょうどベッド脇で、看護師が点滴のルートを確認しながら、流量を調整しているところだった。

「あ、こんにちは。今、点滴の流れを少し調整しています。状態は安定しているので安心してください」

不安そうな顔で見ていた一葉に、看護師がやわらかい声で教えてくれる。

「……そうですか。よかった」
「また後で様子を見に来ますので、何かあればすぐにナースコールを押してくださいね」

看護師は軽く会釈をすると、静かにその場を離れていった。
一葉はベッド脇の椅子に腰を下ろし、眠ったままの父をじっと見つめる。

(お父さん、頑張って……)

見るに堪えない姿に胸が痛む。
しばらく父の寝顔を眺めた後、一葉はベッド脇のファイルに挟まれた書類を手に取った。
そこには入院同意書と、治療説明書。さらには費用の見積もりまで記載されていた。
細かい数字が並ぶその紙を、何度も見返す。

(……こんなに)

手術費、集中治療室の管理料、薬剤費、さらに、個室対応となれば一日あたりの差額も加算されるようだ。
目を逸らしたくなる金額だが、現実、支払い日は迫ってくる。

(お父さんには頼れない。だから私がなんとかしなくちゃ)

誠は弁当屋の仕事にも戻れない。
だが自己破産をした関係で、父の貯金はほぼない。一葉の貯金もあるがそれだけでは賄いきれない。
それでも、生活は続く。さらに長く続くかもしれない父の入院費がかさむとなると、どうなってしまうのだろう。

(わたしだけの給料だけでは、とても足りない)