一命を取り留めた悠醐は順調に回復し、退院を間近に控えた頃――。
病室を訪ねてきたのが京極だった。京極医大の後継者であり、院長の座を約束された男。その口から告げられたのは、事実上の宣告だった。
『君がこうなったのは、篠宮家の仕業だ』
一葉の婚約相手である神城グループに働きかけ、悠醐の在籍していた大学病院を追わせたうえ、日本国内で医師として生きる道そのものを閉ざすよう圧力がかけられている、と。
(やっぱりな。もう俺には国内に居場所はない……ということなんだろう)
そう理解した瞬間、胸の奥で何かが静かに崩れた。
すると京極は楽し気に話を続けた。
『ちょうどいい。海外に人材を回す必要があってね。君、興味あるかな』
『どういうことですか?』
京極は淡々と続ける。
『提携先の病院に医師を送り込む契約がある。こちらは人材を出し、向こうは資金と症例を回す。うちとしては悪くない話でね。ただ――向こうが求めているのは、即戦力だ』
一拍置き、悠醐を見据える。
『君なら使える。経歴に傷があっても、向こうには関係ない。むしろ都合がいい。帰る場所がない人間のほうが、よく働くからね』
どこまでも冷たい笑みが浮かんでいる。
『滞在費と移動費はこちらで負担する。その代わり、向こうでの報酬の一部はうちに入る契約だ。いわば貸しだと思ってくれていい』
『は、はは……』
なぜか悠醐は笑いが止まらなかった。
自分は、一度は死んだ男だ。
どれだけ金持ちにゴミ扱いされても、詐欺師の駒扱いされたとしても、もう何も、感じない。
『面白そうですね。ぜひ、お願いします』
悠醐はふたつ返事で答える。
国内での道を断たれた時点で、選択肢はひとつしか残されていない。
渡されたのは、アメリカ東海岸にある大学附属病院。国内外から重症患者が集まる、過酷な現場だった。
言葉も文化も違う環境で、最初は雑務同然の仕事から始まる。
だが、症例の数も難度も桁違いだった。
寝る間を削ってオペに入り、記録を読み込み、次の症例に備える。ただそれを繰り返す。
やがて、難易度の高い症例ほど、悠醐の名が挙がるようになった。
最初は埋め合わせのように回されていた患者が、いつしか“指名”に変わる。
チーム内での役割も、雑務から判断の中核へと移行していった。
症例数は数字となり、数字は評価となる。その報告は、契約を通じて京極のもとにも届いているはずだった。
(……皮肉なものだな)

