孤高の心臓外科医は、憎しみの元恋人を熱情で囲い込む


突然の紹介に、悠醐はわずかに眉を寄せた。
彼女を知っている。一週間前に赴任してきた初日に、院長室ですれ違ったはずだ。清香は軽く微笑み、悠醐に向かって静かに頭を下げた。

「父からお話は以前より伺っていたんですよ」

柔らかな声で、少し甘えがかかっている。
いったい、どういう意図で今日この場所にきたのかと、警戒心が走った。

「はじめまして。……私の話を院長から?」

率直に問いかけると、院長は穏やかな笑みを崩さないまま口を開いた。

「ああ、ハンサムで日本一腕のいい外科医だと伝えていたんだ」
「ご冗談を」
「いいえ、冗談なんかじゃないわ。とても素敵です」

はっきりと言い切った清香に、悠醐はため息を口の中に飲み込んだ。

(どういうつもりだ)

院長は清香に優しく微笑みかけた後、悠醐に一歩近づき、顔を傾けた。

「清香を頼んだぞ」

穏やかな声音だが、その奥に逃げ場のない圧が潜んでいる。
悠醐が黙っていると、喉奥で男が笑った。

「そういえば、篠宮の娘も同じ病院にいるらしい」
「――ええ」

一葉のことだ。

「とことん、好くしてやれ。それこそが復讐になるだろう」

院長はそう言い残すと、悠醐から距離をとる。
彼はああ見えて人々を救いたいと思う反面、金のにおいに敏感で人の不幸を楽しむきらいがある。
あのときも――。

『君、以前うちに履歴書を送ってくれた研修医だったね』