吐き出した言葉は、驚くほど冷静だった。
これまで自分は孤独に生きてきたつもりでいた。
だが、それは違う。本当の孤独を、知らなかっただけだ。
人を本気で愛し、未来を思い描いた。そのすべてを奪われた後に残る空白は、これまでのどんな孤独とも比べようがなかった。
悠醐は靴のまま、波打ち際へと歩み出る。
冷たい水が足元を攫い、それでも決して歩みは止めなかった。
やがてふいに襲ってきた荒波が、全身を覆った。
恐怖はない。今までの苦しみに比べたら、何も感じなかった。
(このまま死ねそうだ)
肺にまで水が達し呼吸ができなくなった瞬間、なぜか一葉の姿が、鮮明に脳裏に浮かんだ。
彼女の柔らかな眼差し。触れたときの温もり。優しく名前を呼ぶ声。
(……なんでだ)
意識が遠のく中で、わずかに思考が浮かぶ。
(どうして最後まで……)
肺に水が流れ込み、視界が暗転していく。
それでも自分は彼女を想い続け、会いたいと願っていた。
(一葉、さよなら)
悠醐の意識は、そこで途切れた。
だが悠醐の命は、そこでは終わらなかった。
近くを航行していた船が、海上に浮かぶ人影を発見したのだ。救助は迅速に行われ、悠醐はドクターヘリで搬送された。
搬送先は――京極総合大学病院だった。
シャンパンを嚥下していると、ふいに人の気配を感じた。
「待たせたね、五十嵐君」
穏やかな声に顔を上げると、院長――京極茂雄がコンシェルジュとともにこちらにやってきた。
「お疲れ様です。院長」
「今日は君の門出を祝う席だ。ぱーっとやろう。それと――」
京極はそう言いかけて、後ろをみやる。
男の背中からすっと顔を覗かせたのは、小柄で淡い桜色のワンピースを着た女性。
ほっそりとした体躯。濃密なまつ毛に縁どられた色素の薄い茶色の大きな丸い瞳。
「娘の清(きよ)香(か)だ。この前君を一目見て気に入ったようでね」
「初めまして。今日はよろしくお願いします」


