彼の苛立ちが混じった声に、一葉は狼狽えた。
彼は一度も振り返ることなく部屋をでてゆき、重たい空気だけが部屋に残された。
「悠醐さん……っ」
一葉は顔を覆った。
悠醐と別れてから五年間。彼を忘れた日など、一日もない。
というより、自分は忘れたくなかった。彼と過ごした、心の通ったかけがえのない日々とともに、生きていきたかった。
だが彼にとっては、一日でも早く消し去りたい過去に違いないだろう。
わかっていた。だから、絶対に再び出会ってはいけなかったのに、一瞬でも喜んでしまった自分の愚かさが恥ずかしい。
一葉は、少しの時間、その場ですすり泣いた。
それは、もうあの頃のふたりの思い出が、すべて色あせたことを感じてしまったから……。
◆◆◆
午後十八時よりも少し早い時間に、悠醐は赤坂の一等地に位置する外資系ホテルの三十階にいた。
「隣のレストランで京極の名前で予約している者です。時間まで、こちらで待たせていただいても?」


