孤高の心臓外科医は、憎しみの元恋人を熱情で囲い込む


困惑した頭でなんとか口に出すと、父は神妙な面持ちで硬い口を開く。

「最近家に帰らなかったり、帰りが遅くなったりしていると家政婦から聞いていたんだ。どこぞの御曹司かと思いきや、駆け出しの研修医などと……しかも、出が孤児院なんて。どこのドブネズミだ」

「なんてことを……! 何も知らないくせに、彼のことを悪く言わないで!」

頭が沸騰し、屋敷に響くくらいの大きさで一葉は声を上げる。
父のあの言いぐさは、探偵か何かを使って悠醐の素性を調べたようだ。
自分のことを悪く言われるならまだ耐えられる。だが、愛している人を蔑むのはいくら血の繋がった父親でも許せない。
一葉の激しい抵抗に、父は面食らう。だが、すぐに鋭い眼光を彼女に向けた。

「なんだっていい。お前には、今まで散々金を使ってきただろう。会社がつぶれそうな今、お前が結婚することは確定している」
「いや。悠醐さんと離れるくらいなら、わたしはこの家を出て行く!」

そう言って、すっと心の重しが軽くなったような気がした。ずっと、会話もない、身分だけが高い父と一緒にいることが、自分にとってストレスだったのだと知る。
話すことはこれ以上ないと、父に背を向け部屋を出ようとしたそのとき。

「神城グループとは、既に話がついてる。あちらはお前との縁談には乗り気だ。だからこそ、お前とその研修医との関係がご子息に知られたら、研修医の未来は簡単に潰れることになるんだぞ」

「……どういうこと?」

一葉は動きを止め、再び父を見た。彼は不気味な笑みを浮かべ、こちらに挑発的な眼差しを向けた。

「神城グループは国内外問わず、力を持った医療グループだ。ただの研修医の未来を潰すなど、容易い」
「そんなっ……!」

縋るようにして父の腕を掴むが、すかさず振りほどかれる。
茫然とする一葉を、彼は温度のない冷徹な瞳で見下ろした。

「お前は篠宮家としての自覚が足りない。必ずそのドブネズミと別れてこい。それができないなら、徹底的にお前たちの未来を潰してやる」

「お父さん!」