孤高の心臓外科医は、憎しみの元恋人を熱情で囲い込む

国内外に複数の総合病院と研究機関を持つ、日本でも有数の医療機器から病院経営まで手がける巨大グループだ。
国内シェアはもちろん、アジア圏にも強い影響力を持っている。
父が経営する篠宮医療機器メーカーは、もともとその神城グループの一次下請けとして関係を築いてきた企業だった。
創業当初から部品供給や装置開発の一部を担い、長年にわたり安定した取引を続けてきたが、近年の海外展開に伴う投資拡大によって資金繰りが悪化。
結果として、現在はその関係性に依存せざるを得ない立場にまで追い込まれている。
今回の件で神城側も事情を把握しており、表向きは『技術力の保全』を理由に、篠宮側への支援を検討しているという。
ただし、条件が資本提携か、あるいは事実上の吸収に近い形での再建だった。
どちらにしても、篠宮側は経営権の一部、あるいは大半を手放すことになる。
その中で提示されたのが神城家の孫息子と、一葉との結婚だった。
それが成立すれば、神城グループは篠宮医療機器メーカーを傘下に組み込み、債務の肩代わり、追加融資、取引先への信用保証を一括で引き受けるという。
神城の名が後ろ盾につくことで、銀行は融資を再開し、取引先も契約を打ち切る理由を失う。さらに言うと、外部の一企業ではなく、神城グループの一部として扱われることで資金も信用も与えられるのだ。

「これで会社は生き延びられる。家族のために呑んでくれるよな? 一葉」
「そんな……っ! それだけはできません」

一葉は弱々しく告げながら、首を横に振った。
神城グループの孫息子と結婚するということは、悠醐と離れなくてはいけない。

(彼のいない世界なんて、考えられない)
 
一葉の拒絶に、誠の表情からすっと温度が消えた。ゆっくりと脚を組み直し、値踏みするような冷たい視線だけを向けてくる。

「――一葉。お前にろくでもない男が付いているのは、すでに調査済みだ」

何を言っているのか分からない。ろくでもない男とは、誰のことなのか。

「調査済み……って。言っている意味が」