その一言で、世界から音が消えた。
代わりに、自分の心臓の鼓動だけが異様に大きく耳に響く。
父はしばらく黙り込んだあと、観念したように口を開いた。
ここ数年、会社は新規事業として医療機器の海外展開に大きく舵を切っていたという。特に東南アジア市場への進出に力を入れ、現地企業との共同開発や製造ラインの拡張に、多額の資金を投じていた。
だが、提携先だった企業が突然資金繰りに行き詰まり、事実上の契約不履行となった。それに伴い、すでに投下していた設備投資や開発費用がすべて回収不能となったのだという。
さらに追い打ちをかけるように、国内の主要取引先からも契約の見直しを求められ、資金繰りは一気に悪化した。
銀行からの追加融資も断られ、手元の資金では、来月以降の運転資金すら確保できない状態にまで追い込まれている。
「……もう、どうにもならない」
父の声は、かすかにかすれていた。
それは、これまで一葉が見てきた父とは、まるで別人のように弱々しい姿。
常に自信に満ちていて、何事にも揺るがないはずの人だったはずなのに。
「でも、なんとかしなくちゃならないでしょう。あきらめちゃだめだよ……!」
一葉は無意識に声を上げていた。
状況が最悪なのは理解している。だがまだ方法はあるかもしれない。
できることは、すべてやったのだろうか。
すると頭を抱えうつむいていた父は、ふいに視線を上げた。
「ああ、ひとつだけ方法がある」
その決意を帯びた強い目に、一葉の身体が強張った。
「お前が、神城メディカルグループの後継者、神城家の孫息子と結婚することだ」
「神城って……」

