レジャーシートを広げ、ピクニックを始めようとした矢先、突然声をかけられた。
悠醐も相手を認め、わずかに表情を改める。
「ダニエル、まさかこんなところで」
「びっくりです! 奥様とお子さんですか?」
「ああ、そうだ」
ダニエルは一葉に丁寧に会釈したあと、感心したように悠醐を見た。
「先日の症例、本当に見事な手さばきで……僕、感動しました! あのオペは、あなたでなければ難しかった」
一葉は思わず悠醐を見上げる。
だが悠醐は特別な反応を見せない。ただ「チームの力だ」と静かに答えただけだった。
「あなたらしいですね」
ダニエルは笑い、詩に向かって膝を折った。
「Your father is a very great doctor.」
詩は聞き取れなかったらしい。きょとんとした顔をした彼女を見て、ダニエルは立ち上がった。
「では、いい時間を」
一葉と悠醐が会釈すると、彼は颯爽と消えていく。
すると詩がひょいっと、悠醐の首にしがみついた。
「ねぇさっきのひと。ぱぱのことすごいおいしゃさんっていった?」
「いいや。俺は一葉と詩のスーパーマンだから違う」
「そうなのぉ~?」
一葉はバスケットを開き、丁寧に包んでいたサンドイッチを取り出す。
レジャーシートの上に並べると、たまごとハーブのやさしい香りがふわりと広がった。
「はい、悠醐さんはこっち。詩はミニサイズ」
仕事の場での悠醐を、一葉はすべて知っているわけではない。
けれど、彼がどこにいても、誰に見られても、変わらず尊敬されているのだと知る。
その事実が、誇らしくて、少しだけ遠くもあった。


