視線はすでに清香へ向けられており、普段の静かな表情とは違い、張り詰めた緊張が滲んでいた。
「触るな」
悠醐の殺気だった声に、清香の体がよろめく。
「大丈夫か! けがは?」
悠醐の問いかけに、一葉は息を乱しながらも、首をはっきりと横に振った。
その様子に安堵した悠醐は、視線をゆっくりと清香へ向ける。
「君、今何をした?」
「……手が滑っただけ!」
清香の吐き捨てるような言葉に、その場の空気が凍りついた。
だが彼女は気にも留めず、歪んだ笑みを張り付けたまま悠醐を見る。
「いいわ。どうせすぐ終わるんだから。あんた、病院にいられなくしてやる!」
だが悠醐の表情はぴくりとも動かない。
むしろ、笑顔を浮かべる余裕があるくらいだった。
一葉を庇うように抱いたまま、清香を睨みつける。
「勝手にしろ」
取りつく島もない一言に、清香はただ茫然とこちらを見ているだけだった。
場所を移動し、人気のある廊下に戻ってくる。
がたがたと体を震わせる一葉を、悠醐は人目もはばからず強く抱きしめた。
「遅れてすまない」
その声に、首を横に振るのが精いっぱいだった。
「一葉の体調が心配で医事課に行ったら、君が工藤に呼ばれて旧病棟に向かったと聞いた。だが、工藤はオペ中のはずだ。すぐにおかしいと気づいた」
やはり、工藤も関わっていたのだ。
「……嫌な予感がして、走って来た。本当に間に合ってよかったよ」
一葉の肩を支える手が、守るように力強い。
(この件については、のこのこ信じて向かったわたしの責任もある)
一葉は大きく深呼吸し、心臓の音を落ち着かせる。
そしてそっと視線を上げた。
「あの、悠醐さん。わたし、信じてますけど……外国人の女の人と、不倫……してませんよね」
「は?」
悠醐の拍子抜けした声に、かっと頬が熱くなる。
「さっき、清香さんがそんなことを言っていて……わたしも以前、悠醐さんのスーツに、茶色の髪がついていたところ、見たから」


