孤高の心臓外科医は、憎しみの元恋人を熱情で囲い込む




つわりが落ち着き、一葉は数か月ぶりに職場に復帰した。

「無理しないでね。いつでも頼ってね」

初めは悠醐との交際を、どちらかというとよく思っていなかったであろう同僚たちが。その膨らみ始めたお腹を見て、本気で心配してくれるようになった。

(全然平気だけど、無理はよくない)

医者からも、まだ活発な運動や重い荷物を持つのは禁止されている。
なので雑務は他の同僚に任せ、書類を打つ作業を中心にさせてもらっていた。
だが――。

「一葉ちゃん、ごめん」

藤木が声をかけてくる。

「工藤先生が、さっきの検体の確認を直接お願いしたいって。急ぎみたいだから、これ持って行ってくれる? 一葉ちゃんに直々に……」

そう言って渡されたのは、検体データの入った封筒だった。特に不自然な点はない。むしろ、工藤らしい合理的な頼み方だ。
だが、わざわざ指名までして、妙ではある。

(さすがに、妊娠している自分を口説こうなんてことはないでしょ)

そう言い聞かせながら一葉は頷き、指定された会議室へ向かった。

(あれ……ここ、電気がついてない……?)

人気がない。すでにいるはずの工藤さえ見当たらない。
間違えたのかと、踵を返したそのときだった。

「遅かったわね」

背後から声がした。振り返った瞬間、息が止まる。

(どうして――)