孤高の心臓外科医は、憎しみの元恋人を熱情で囲い込む


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東京駅の目の前に位置する、高級ホテルのラウンジに、悠醐はいた。
ガラス越しに夜景が広がる席で、悠醐は向かいに座る男を見つめる。
整った彫深い顔立ちに、琥珀色の瞳。そして天然の明るいオレンジがかった茶髪――日本語は流暢だが、どこか発音に異国の響きが混じる。
彼は、かつて海外の総合病院でともに執刀していた同僚――ダニエル・カーターだった。

「久しぶりだな、悠醐」
「うそつけ。この前も会っただろう」

軽いジョークで、場が和んでいく。

「で、この前言ってた話だけど」

ダニエルは軽く肩をすくめながらも、その目は真剣だった。

「向こうでポストを用意できる可能性がある。心臓外科のチームに空きが出る。お前なら、問題なく入れそうだぞ」

悠醐はわずかに視線を落とす。

「……時間はどれくらい、かかりそうなんだ?」
「最短で数か月。ただ、お前が来るなら優先的に動くよ。正直、あっちはお前を欲しがってるし」

間を置いて、ダニエルは続けた。

「前向きに考えてくれ。お前が日本にいる理由は、もうないだろ」

その言葉に、悠醐の瞳がわずかに揺れる。

(理由がない、か)

心の中で反芻する。
理由はないが、心残りはある。一葉の父――篠宮誠のことだ。
正直に言えば、彼が一葉の父でなければ、気に留める価値もない男だ。
だが、どれだけ過去が歪んでいようと、彼女にとっては唯一の血の繋がった家族であることに変わりはない。
切り捨てて済む話ではない。