その声音は淡々としているのに、深いところで揺れている気がした。
さらにその後のことも、彼は簡潔に話した。
事故のあと、遺産の整理のために親族が集まり、手続きはあっという間に進められていったこと。養子ではあっても未成年だった自分には何の決定権もなく、気づいたときにはすべてが既に決まっていたこと。家も資産も、親族たちの間で分けられていった。
悠醐自身は、何も持たずにその家を出るつもりだったという。
けれど、義母が生前、彼の名義で少しずつ貯金をしてくれていたことが後から分かった。
その額は、およそ五百万円。
悠醐はそれだけを受け取り、ほかはすべて手放した。
そしてそのお金を元に、大学へ進学することを決めたのだと、特別な感情を見せることなく言った。
「俺は、亡くなった彼らの無念を晴らしたい。だから、ひとりでも多くの命を救う医者になると決めた」
彼の強い決意が滲んだ声が、一葉の鼓膜を揺らした。
ずっと前を向いていた悠醐が急に振り返ったので、心臓が跳ね上がった。
「単純か?」
「……いいえ。すごく、素敵だと思います。でも……」
一葉は声を振り絞り、悠醐と必死で視線を合わせた。
「もう、独りで戦わないでほしい。私が居ますから」
一葉の言葉に、一瞬悠醐は動きを止め、きつく手を握り返す。そしてかすかに口角を上げた。
「ありがとう。一葉にも、俺がいるだろう」
悠醐の低い声は、一葉を包み込むように温かく、優しかった。
一葉はほっとしたように、小さく頷く。
「私も、寂しかった。だから、悠醐さんがいてくれて、嬉しいです」
「一葉……」
次の瞬間、そっと唇が重なり、すぐに離れて行った。
視界が定まらない近さに、彼の整いすぎた顔がある。
遅れて心臓が壊れるほど、激しく高鳴った。大好きな人と、キス、した。
「好きだよ、一葉」
二度目のキスだった。戸惑いながらも、一葉は震える唇で、それを受け入れる。触れた場所から、じんわりと熱が広がっていく。
(好き……)


