午前中の便がひと段落し、昼の追加搭載も無事に終えた。
機体の腹に寄り添っていた車両が離れていき、搭載口が閉まる。
次の作業の準備に移ろうとしていた、そのときだった。
無線が運転席の西本に繋がり、花梨は動きを止めた。
「え……? どういうことですか? 今から緊急着陸するって?」
西本の横顔が一瞬にして強張る。
受話器を耳に当てたまま、数回だけ相槌を打ち、最後に「了解」と言って切った。
「……木梨さん、今朝離陸した便が、今から引き返してくるらしいんだ。理由は機体挙動の異常だと。よく分からんが、詳細はまだ下りてない」
「引き返し? だ、大丈夫なんでしょうか」
花梨は一気に不安になった。今朝の便で、久登も搭乗しているはずだからだ。
(まさか、久登さんのフライトが事故に遭ってるなんてこと……ないよね?)
黙り込む花梨に、西本はさらに続ける。
「とりあえず、羽田の運用が一旦止まることは決定したみたいだ。全便、欠航。搭載もストップ。いったん待機室に戻る」
花梨は、指先が冷たくなるのを感じた。
(誰の便なの? どの便なの?)
不安だが、久登が無事かどうか確認する手段がない。
きっと彼は何事もなく、新千歳に向かっているはずだと、気丈に自分に言い聞かせた。
――だが、花梨の希望は待機室に戻った途端、一気に崩れ去った。
すでにディスパッチャーの中で、便名が把握されており、事故機は久登が搭乗しているもので間違いなかった。
花梨は咄嗟に、久登とのメッセージを開く。
彼はいつもフライトが無事に終わると、真っ先に花梨に連絡をくれる。だが、もう到着している時刻にも関わらず、彼からの連絡はない。
(本当に……嫌だ、信じたくない)
不安に押しつぶされた花梨は、たまらず待機室のテーブルでこっそりと涙を流した。
「おいおい、木梨さん泣くんじゃない。絶対に大丈夫だから。君の旦那さんは優秀だろう!」
隣に座っていた西本が、花梨を励ますようにバンバンと背中を叩いてくれる。
彼の明るい声が、花梨の落ち込んだ心を奮い立たせてくれた。
泣いている場合じゃない。状況は全く掴めないが、今久登は、必死で戻って羽田に戻ろうと奮闘しているのだから。
「西本さん、ありがとうございます。久登さんは、絶対に大丈夫です。すごく頑張り屋だから」


