花梨の声は、かすかに震えているような気がした。
今すぐ抱きしめたい衝動にかられ、久登は思わずその場で拳を握った
「久登さん、愛してます。おやすみなさい」
「俺も愛してる。おやすみ、花梨」
久登は通話を終える。
花梨と愛を確かめ合ったからか、胸が熱くなり、じんわりと体温が上がった。
(俺はひとりじゃない。花梨がいる。子どもたちがいる。それ以外、何もいらない)
正隆と接触して、また過去の孤独を思い出しかけたが、花梨のおかげで自分を取り戻せた。
離れて暮らしていても繋がっていると、心から思えるのだ。
耳に残る彼女の声を反芻していたら、睡魔がゆっくりと久登を飲み込んでいった。
その後は、ぐっすり眠れた。
翌朝、久登はすっきりと目覚め、時間通りに羽田空港に到着した。
スターロード航空・羽田発 新千歳行きのフライトを副機長として担当する。
滑走路を滑り出した機体は、いつもと変わらない加速を見せていた。
「V1」
「ローテーション」
機長の合図に合わせ、操縦桿が引かれる。すると機体は素直に浮き上がり、東京湾の上空へと出た。淡い海が広がり、船の後が穏やかに揺れている。普段と変わらない光景……のはずだったが、久登は小さく眉を寄せた。
(なんとなく、機体が軽いような気がするが)
操縦桿に伝わる感触が、いつもと違う。必要以上に力が要らないのだ。
計器に視線を走らせて、対気速度・推力・迎角を確認するが、どれも異常値ではない。
(数字は、確かに正常だが……ただの気のせいか?)
だが、久登の胸騒ぎは止まらない。
何百回も経験してきた離陸とは、微妙に違うように感じてならないのだ。
「上昇、少し速くないですか」
機長の方を向いた久登は、探るように口にする。すると彼は、窘めるようにくすりと口元に笑みを浮かべた。
「誤差の範囲だ。気にするな」

