訓練が本格化すれば、生活は不規則だ。睡眠不足も、精神的な負荷も、避けられない。
それを加味し、同居をいったん見送ろうと言い出したのは、花梨だった。
『今は、久登さんの昇格を一番に考えましょう』
迷いのないその言葉に、久登は驚きとともに、誇らしい気持ちになった。
花梨は相手を思いやりながら、自分の足で立つ。そのしたたかさに、久登は惹かれてきた。
だからこそ、この期間は――自分が耐える番だ。
久登は他愛のないメッセージを花梨に送り、再び電源を落とす。
休憩時間は、もう終わりだ。
先ほど花梨たちの写真を見たからだろうか。再び訓練室へ向かう足取りには、少しだけ軽くなっていた。
その日の夜、久登は訓練を終えると、食事も取らずに自宅である、六本木のタワーマンションへ直行した。
明日は早朝出発のフライトが入っている。準備と入浴を手早く済ませ、少しでも早く横になり、疲れ切った身体を休めたかった。
寝不足は、判断力を鈍らせる。それだけは、絶対に避けなければならない。
エントランスに足を踏み入れた瞬間、久登は違和感を覚えた。
ロビーのソファに、ひとりの男が座っている。背筋を伸ばし、腕を組んだその姿を見て、久登は思わず足を止めた。
「……父さん」
「久登。久しぶりだな」
須天正隆――勘当されてから、実に四年ぶりに顔を合わせる父だった。
久しぶりに見る正隆は、記憶の中よりも小さく、老いて見えた。
それでも、その目だけは変わらない。人を値踏みするような、冷たい光を宿している。
「聞いたぞ。不動産投資も、株も、ずいぶんうまくやっているそうじゃないか」
嫌な予感が、胸をよぎる。
「会社のほうが、今、資金繰りで苦しくてな。少し、融資を――」
「断る」
久登は、即座に言い切った。正隆が目を見開く。
「話は最後まで――」
「聞く必要はない」
低く、はっきりとした声で遮る。
「これ以上、俺の人生に口を出すな。金で縛るのも、利用するのも、もう終わりだ」
「……親に向かって、随分な言い草だな」


