敏腕パイロットは空の上のシェフを愛す~愛おしい双子を添えて~

その日の久登は、午前中から訓練に入っていた。
場所は、会社の訓練棟にあるフライトシミュレーター室。

副機長として通常のフライト業務をこなしながら、機長昇格に向けた訓練を並行して受ける、いわゆる機長候補期間に入ってから、こうした日が続いている。

今日は、教官機長が同席し、実際の運航を想定した評価訓練だった。
久登は機長席に座り、すでに数時間、緊張を切らすことなく判断を求められ続けている。

「判断が遅い。今の状況で、君は何を優先する?」

シミュレーター内に、教官機長の低い声が響いた。

「機体姿勢の安定と、乗客への影響を最小限に抑えることです」
「それは結果だ。判断じゃないだろう」

沈黙が一瞬落ちたが、突然鳴り響いた計器の警告音が、神経を逆撫でしてくる。

「次の一手を言え。機長なら、今、何を決める?」

久登は奥歯を噛みしめ、息を整えた。

「最寄りの代替空港を想定し、運航継続の可否を即座に判断します」
「理由は?」
「天候条件と燃料残量を考慮したうえで、最悪の事態を避けるためです」

数秒の沈黙のあと、教官が短く息を吐いた。

「……よし。続けろ」

その一言に、久登はわずかに肩の力を抜いた。
だが、これは訓練であると同時に、実質的な昇格試験でもある。
久登は今この瞬間も、機長として相応しいかを見られている立場だった。

通常のフライト業務と並行して行われる訓練は、想像以上に身体と神経を削る。
短い休憩に入って、ようやくスマートフォンの電源を入れると、画面いっぱいに映し出されたのは、双子と花梨の写真だった。
無邪気に笑う二人と、その隣で穏やかに微笑む花梨が久登を見ていた。愛おしい存在を目の当たりにし、胸の奥が、きゅっと締めつけられた。

(みんなに、会いたい)

本当なら、結婚してすぐにでも、花梨と双子と一緒に暮らしたかった。
ちょうど花梨が退去を迫られていたこともあり、自然とその話は進んでいたのだが、そこへ機長候補の話が舞い込んだ。