敏腕パイロットは空の上のシェフを愛す~愛おしい双子を添えて~


真摯な眼差しでそう告げると、久登はそっと花梨の頭に手を置き、ひとなでしてから、その場を離れていった。
忙しい合間を縫って、駆けつけてくれたのだろう。
その背中を見送りながら、花梨の胸には、言葉にならないほどの感謝と温かさが広がっていた。
その後、改めてふたりで会う時間を作り、久登は静かに過去を語ってくれた。

乃愛は、久登を追いかけるようにして、四年前にグランドスタッフとして入社してきたこと。
何度も偶然を装って近づいてきたが、そのたびに、久登は一線を越えないよう毅然とした態度で接してきたこと。
それでも花梨に話さなかったのは、ケータリングスタッフとグランドスタッフが仕事上で顔を合わせる機会はほとんどなく、問題になるとは思っていなかったからだという。

「……俺の見通しが甘かった」

そう前置きしたうえで、久登はいっそう真剣な眼差しを彼女に向ける。

「この際、仕事を変えるのも一つの選択だと思う。君は料理が好きだし、腕もある。また料理人を目指してもいいんじゃないか?」

花梨は久登の言葉をありがたく受け止めながらも、その場ですぐに答えを出すことはできなかった。
ケータリングスタッフとして働く日々に、ようやくやりがいを感じ始めたところだったのだ。
現場で料理を運び、支え、無事にフライトを送り出す――その一つひとつが、いつの間にか花梨の誇りになっていた。

もしこの先、機内食のメニュー開発に関わる仕事に携われたなら。
現場で培った感覚を活かしながら、空の上で食べられる料理を考える側に回ることができたら……それはそれで、とても魅力的な未来に思えた。

そう正直な気持ちを久登に伝えると、彼は驚くことも否定することもなく、静かに頷いた。

「……そうか。花梨が納得できるなら、それでいい」

その言葉に、花梨は胸の奥がふっと軽くなるのを感じた。
久登が乃愛に直接、毅然とした態度を示してから、職場に流れていた噂は、嘘のようにぴたりと止んだ。
久登と璃子が、水面下で火消しに回ってくれたらしい。

代わりに、事実を歪めて言いふらしていた乃愛の評価は、一気に落ちていった。
同情は集まらず、残ったのは〝根拠のない噂を流した人物〟という冷ややかな視線だけだった。
花梨はそれを知っても、安堵こそすれ、勝ち誇った気持ちにはなれなかった。

ただ――ようやく、前を向いて歩ける場所に戻ってきたのだと、静かに実感していた。