花梨は、睨みつけてくる乃愛から、必死に視線を逸らさなかった。
久登からすべてを詳しく聞いたわけではない。だが、彼が語っていた話と、今、乃愛が口にしている内容とでは、どうしても食い違いを感じる。
久登は、もともと結婚するつもりなどなかったと言っていた。本人の意思とは関係なく、周囲が勝手に婚約話を進めていたのだと。
たしかに――自分が姿を消したことが引き金となり、久登が実家に対して抱えてきた不満が、限界に達したのだろう。
けれど、それは本当に花梨の責任なのだろうか。
久登の気持ちを顧みることなく、彼の父親は家の都合で話を進めた。そして、乃愛はその流れを当然のものとして受け入れていたのだ。
原因があるとすれば、そこではないのか。
花梨の胸に、謝罪の気持ちは微塵も湧かなかった。代わりに、静かな怒りがこみ上げる。
花梨は、乃愛を真っ直ぐに見据え、いっそう強い眼差しを向けた。
「久登さんと私は、もう誰かに非難されるような立場ではありません。あなたのご家庭とも、何の関係もありません」
乃愛はかすかに目を見開き、動揺している様子だった。
花梨は一拍置き、言葉を選ぶように続ける。
「これ以上、事実と違うことで責め立てるのは……やめていただけますか。私たちはもう穏やかに暮らしたいんです」
「……っ、何よそれ」
乃愛が吐き捨てるように言った、そのときだった。
「花梨」
聞き慣れた声が、すぐ傍から聞こえてくる。
はっとして振り返ると、そこに立っていたのは久登だった。整えられたパイロット姿のまま、息をわずかに乱している。
「久登、さん……?」
久登の姿を認めた瞬間、花梨の胸が強く跳ねた。
最近は互いに忙しく、きちんと顔を合わせるのは久しぶりだった。声を聞くだけで安心するはずなのに、今は違う。突然の再会と、張り詰めた空気の中で、心臓の鼓動だけがやけに大きく響く。
(会いたかった。久登さん)
けれど同時に、久登がここに立っているという事実が、張りつめていた心を静かにほどいていくのを感じた。
隣に来てくれた。
久登からすべてを詳しく聞いたわけではない。だが、彼が語っていた話と、今、乃愛が口にしている内容とでは、どうしても食い違いを感じる。
久登は、もともと結婚するつもりなどなかったと言っていた。本人の意思とは関係なく、周囲が勝手に婚約話を進めていたのだと。
たしかに――自分が姿を消したことが引き金となり、久登が実家に対して抱えてきた不満が、限界に達したのだろう。
けれど、それは本当に花梨の責任なのだろうか。
久登の気持ちを顧みることなく、彼の父親は家の都合で話を進めた。そして、乃愛はその流れを当然のものとして受け入れていたのだ。
原因があるとすれば、そこではないのか。
花梨の胸に、謝罪の気持ちは微塵も湧かなかった。代わりに、静かな怒りがこみ上げる。
花梨は、乃愛を真っ直ぐに見据え、いっそう強い眼差しを向けた。
「久登さんと私は、もう誰かに非難されるような立場ではありません。あなたのご家庭とも、何の関係もありません」
乃愛はかすかに目を見開き、動揺している様子だった。
花梨は一拍置き、言葉を選ぶように続ける。
「これ以上、事実と違うことで責め立てるのは……やめていただけますか。私たちはもう穏やかに暮らしたいんです」
「……っ、何よそれ」
乃愛が吐き捨てるように言った、そのときだった。
「花梨」
聞き慣れた声が、すぐ傍から聞こえてくる。
はっとして振り返ると、そこに立っていたのは久登だった。整えられたパイロット姿のまま、息をわずかに乱している。
「久登、さん……?」
久登の姿を認めた瞬間、花梨の胸が強く跳ねた。
最近は互いに忙しく、きちんと顔を合わせるのは久しぶりだった。声を聞くだけで安心するはずなのに、今は違う。突然の再会と、張り詰めた空気の中で、心臓の鼓動だけがやけに大きく響く。
(会いたかった。久登さん)
けれど同時に、久登がここに立っているという事実が、張りつめていた心を静かにほどいていくのを感じた。
隣に来てくれた。

