敏腕パイロットは空の上のシェフを愛す~愛おしい双子を添えて~


『お母さまが……?』
『はい。私の料理はすべて、母のレシピがもとになっているので。私は亡くなった母の味を根絶やしにしたくなくて……ずっと、母を傍に感じたくて作っているようなものだから』

花梨は彼の長い指に自分の指を絡め、指の腹でその滑らかな肌を堪能した。
まるでシルクのような手触り。彼に抱かれている間、その感触までも心地よく、ずっと包まれていたいと思った。
すると久登は、絡んでいた彼女の手を引き寄せ、手の甲に淡いキスを落とす。

『そうだったのか。君の核に、お母さまの優しさが眠っていたとは……』

久登は長いまつげを微かに揺らし、その切れ長の瞳を花梨に向けた。
彼女に向ける眼差しは、彼を照らす太陽の光よりも、優しく柔らかだった。

『君には、料理を辞めてほしくないな。人を幸せにする力があるのだから』
『久登さん……』

彼の言葉にまたふわりと、心が温められていく。
夢はもう、追いかけられないほど遠い場所にいってしまったような気がしていた。
だが彼がそう言ってくれると、不思議とまだ諦めなくてもいいかもしれない、という気になってくる。

『久登さんの、夢はあるんですか? 何かしたいとか、どこに行きたいとか』
『夢……』

久登は一瞬、動きを止め、そして花梨の手をほんの少しだけ強く握った。

『夢は……空を飛びたいかな』
『そ、空⁉』

思わず声が裏返る。あまりにも唐突で、拍子抜けしてしまったのだ。

『おい、笑いすぎ』
『だって……』

笑ってしまいながらも、花梨はふと胸の奥が温かくなるのを感じていた。
投資会社だの、家柄だの、重たい現実を背負っている久登が、こんなにも無垢な願いを口にすることが、どこか愛おしい。
空を飛びたい。その言葉には、計算も打算もなく、ただ純粋な憧れなのだと伝わってくる。
こんなにも素敵な大人の男性の中にも、無邪気な子供心が存在しているのだ。
久登は花梨の少し照れたように視線を逸らし、そっと目を閉じた。

『昔……亡くなった母にもらった本があったんだ。エルマーとりゅうっていう題名の』