そう告げた声は静かで、花梨には感情を押し殺したようにも聞こえた。
花梨はようやく、久登の芯の部分に触れられたと思った。
彼の遠い瞳に、初めて会ったあの日の横顔が重なる。
彼の父――須天と並んでいるときの久登は、いつもどこか寂しそうだった。
久登がずっとこうして孤独を抱えてきたと思うと、衝動的に抱きしめたい気持ちがこみ上げる。
久登はその沈黙を埋めるように、再びスープを口に運んだあと、ふっと息をついた。
『でも……大げさに聞こえるかもしれないが』
彼は少し迷うような間を置いてから、こちらに微笑みかけた。
『君の顔を見ると、君の作った料理を食べると……自然と、力が抜けたんだ』
それは弱さを晒すようでいて、同時に、長い間しまい込んでいた本音のように聞こえる。
『だからずっと言えなかったが、君には心から感謝してる。俺の居場所を、作ってくれたことに』
その言葉を聞いた瞬間、花梨の喉がきゅっと詰まる。
胸に溜まっていた感情が一気に溢れそうになり、すぐに返す言葉が見つからない。
ただ、目の奥が熱くなっていくのを必死で堪えるしかなかった。
『――今日は、どうもありがとう』
久登の食事が終わり片づけを済ませた後、花梨は身支度を整え玄関に向かう。
にこやかに笑みを交わし、すぐに玄関から出ようとする花梨の腕を、久登はすかさずとった。
『……どうして、泣くんだ?』
その一言を聞いた瞬間、花梨の視界が滲み、気づけば、止めどなく涙が零れていた。
腕を引かれ、やや強引に向かい合わせになった彼は、硬い表情を浮かべていた。
『今日が最後じゃないだろう? もう会えないから泣くのか?』
性急な問いかけに、花梨は言葉を見つけられなかった。
最後じゃないと思いたいが、まったく確信が持てない。
黙り込んで視線を落とすと、久登はすがるような表情で顔を覗き込んでくる。
『それとも、俺に言えてないことでもあるのか。困っているならなんだって――……』
『……ただ、久登さんが好きだから。悲しいんです』
胸の奥に詰まっていた言葉が、自然と口から零れた。
言い訳も、理屈も、何もない。彼が好きなのに、一緒にいるという選択ができないのが悲しくて仕方がないのだ。
『花梨』


