敏腕パイロットは空の上のシェフを愛す~愛おしい双子を添えて~


――それから、約三十分後。
トースターから耐熱皿を取り出した花梨は、湯気を逃がさぬよう慎重に歩き、ダイニング  
キッチンの背もたれの高い椅子に腰かけた久登の前へ、それを置く。
こんがりと焼き色のついたチーズの下で、黄金色のスープが静かに揺れて美味しそうだ。
飴色になるまで炒めた玉ねぎ、そして最後に隠し味で入れた白ワインの甘い香りもいい塩梅で立ち上っている。

『いただきます』
久登は軽く手を合わせると、スプーンを取り、そっとスープをすくった。
一口含んだ瞬間、レストランで味わうときのように、自然と目を閉じる。
いつも見てきたこの美しい横顔に、花梨は思わず見惚れた。

『どうですか?』

彼はじっと味を確かめてから、静かに喉へ落とす。
ゆっくりと目を開けた久登は、花梨へ優しい眼差しを送り微笑む。

『やっぱり、とても美味しいよ。……本当に。いつもの優しい味が、ちゃんとこのスープにもある』
『ほんと……嬉しいな』

久登のささやかな要望を叶えられて、花梨はほっと安心する。
これで思い残すことなく、彼の前から姿を消せる。きっと新生活も頑張れるだろう。
久登がスープを味わっている横で、彼女は即席で作ったサラダと、チーズとソーセージを切り分けた皿を置いてゆく。
まだ久登は夕食を摂れていないと聞き、急いで用意したのだ。

(久登さん、本当に頑張ってるな)

こんな遅い時間まで仕事に追われていたのにも関わらず、彼は一瞬でも疲れた顔を見せない。
その無理を無理とも思わず受け入れているような姿に、花梨は小さく胸を痛める。
彼の正面に腰を下ろした花梨は、何気ない調子を装って尋ねてみる。

『久登さん、差し支えなければ……お仕事は、お父様のところで?』

久登は一瞬だけ動きを止めたが、すぐにスプーンを持ち直し、食事を再開した。

『ああ、父の投資会社で副社長として働いている。今は官庁への出向という形で現場に行くこともあるよ。……いずれ、会社を継ぐ前提での準備期間ってやつだな』

制度や規制の内側から投資の流れを見る役所での仕事は、想像以上に神経を使うらしい。
しかも二十代という年齢でその立場に就いたことで、快く思わない者も多い。
須天の子どもとして生まれた以上、それは避けられない宿命なのだと、久登は自嘲気味に笑う。

『息が詰まるような毎日だよ』