それから花梨は、久登とともに店から一駅隣にある久登の住むタワーマンションの一室にやってきていた。
幸いなことに、マンションの一階には二十四時間営業の小さなスーパー兼コンビニがあり、そこで調達した品々を、大きなダイニングキッチンに並べていく。
『久登さん、明日もお仕事ですよね? 私、作っておきますので、先に寝る支度を進めてください』
久登はほとんど自炊をしないらしく、キッチンは使われた形跡のないまま、きちんと整っていた。
加えて必要な理器具は一通り揃っており、花梨はスムーズに準備を進めていく。
手際よく動く花梨の背中を、久登は微笑ましく眺める。
そしてスーツを脱ぎながらリビングの戸に手をかけ、振り返って彼女へ声をかけた。
『君のスープがまた食べられるなんて、夢のようだ。楽しみにしているよ』
『夢だなんて……大げさです』
『全然大げさじゃない。俺の一番の好物は、君のスープで間違いないんだから』
浴室に向かう久登の背中を見送ったあと、花梨は包丁を握った。
まだ、頬が緩んでいるのが自分でもわかる。
(不思議……あんなに、話すたび緊張していたのに)
今は、驚くほど自然に言葉を交わせている気がした。
このまま、ふたりの関係が少しずつ進んでいくのではないか……そんな気配すら感じさせた。
(今だけは余計なことを考えず、久登さんとの時間を楽しもう。自分の作った料理で、彼を少しでも幸せにしたい)
花梨は切なさを抱きながらも、玉ねぎの繊維に沿って薄くスライスする。
するとふいに、包丁の音に混じって、遠くから微かな水音が届いた。シャワーの音だと気づいた瞬間、じんわりと頬が熱くなっていく。
久登の家に、自分がいる。
大きなガラス窓に映るのは、目を見張るほどの都会の夜景。キッチンに立つ自分が宝石のような輝きと、重なっていた。
(もし付き合っていたら、こうやってこのキッチンで、久登さんにいろんな食事を作っていたのかな?)
そんな妄想をしてしまい、花梨は思わず苦笑した。
先ほどの告白が蘇り、抑えていた切なさが、ゆっくりと全身へ広がってゆく。
(考えちゃだめだ。今、久登さんと付き合っても、彼を困らせるだけよ)
指先に力を込め、玉ねぎのスライスを再開する。静かなキッチンには、包丁の乾いた音が規則正しく響いた。花梨の頭の中は、久登のことで埋め尽くされていた。
幸いなことに、マンションの一階には二十四時間営業の小さなスーパー兼コンビニがあり、そこで調達した品々を、大きなダイニングキッチンに並べていく。
『久登さん、明日もお仕事ですよね? 私、作っておきますので、先に寝る支度を進めてください』
久登はほとんど自炊をしないらしく、キッチンは使われた形跡のないまま、きちんと整っていた。
加えて必要な理器具は一通り揃っており、花梨はスムーズに準備を進めていく。
手際よく動く花梨の背中を、久登は微笑ましく眺める。
そしてスーツを脱ぎながらリビングの戸に手をかけ、振り返って彼女へ声をかけた。
『君のスープがまた食べられるなんて、夢のようだ。楽しみにしているよ』
『夢だなんて……大げさです』
『全然大げさじゃない。俺の一番の好物は、君のスープで間違いないんだから』
浴室に向かう久登の背中を見送ったあと、花梨は包丁を握った。
まだ、頬が緩んでいるのが自分でもわかる。
(不思議……あんなに、話すたび緊張していたのに)
今は、驚くほど自然に言葉を交わせている気がした。
このまま、ふたりの関係が少しずつ進んでいくのではないか……そんな気配すら感じさせた。
(今だけは余計なことを考えず、久登さんとの時間を楽しもう。自分の作った料理で、彼を少しでも幸せにしたい)
花梨は切なさを抱きながらも、玉ねぎの繊維に沿って薄くスライスする。
するとふいに、包丁の音に混じって、遠くから微かな水音が届いた。シャワーの音だと気づいた瞬間、じんわりと頬が熱くなっていく。
久登の家に、自分がいる。
大きなガラス窓に映るのは、目を見張るほどの都会の夜景。キッチンに立つ自分が宝石のような輝きと、重なっていた。
(もし付き合っていたら、こうやってこのキッチンで、久登さんにいろんな食事を作っていたのかな?)
そんな妄想をしてしまい、花梨は思わず苦笑した。
先ほどの告白が蘇り、抑えていた切なさが、ゆっくりと全身へ広がってゆく。
(考えちゃだめだ。今、久登さんと付き合っても、彼を困らせるだけよ)
指先に力を込め、玉ねぎのスライスを再開する。静かなキッチンには、包丁の乾いた音が規則正しく響いた。花梨の頭の中は、久登のことで埋め尽くされていた。


