敏腕パイロットは空の上のシェフを愛す~愛おしい双子を添えて~


約一年もの間、常連として彼と接してきたのに、彼のことを知らなすぎる。
どんな仕事をしているのかも、どこに住んでいるのかも。笑った顔だって初めて見た。
でも、警戒心の強い彼が、少しずつ自分にだけ心の距離を縮めてくれていっているのは伝わってくる。
もうこの場所から離れなくてはいけないと十分すぎるほど分かっているのに、気持ちの制御が効かない。
すると久登は再び花梨をまっすぐ見つめ、薄い唇をわずかに開けた。

『……もうここまできて、面倒な言い訳はしたくない。単刀直入に言う。俺と付き合ってほしいんだ』
『……っ。久登さん、どうして……?』

花梨の質問に、久登は真剣な表情で頷いた。

『君のそばにいると……君の料理を食べていると、心が安らぐ。自分がここにいてもいい、って言われているような気がして。幸せな心地になるんだ』

『久登、さん……』

彼の言葉に、彼女の胸は喜びが広がった。
絶対に手の届かないと思っていた彼が、自分と同じように想ってくれた。
そして交際まで申し込んでくれたなんて。世界が反対になってしまったのだろうかと思うほど信じられない。
奇跡が起きたのだ。

(もちろんOKだって言いたい。でも……)

花梨の脳裏に、病室で眠っている父親の姿が鮮明に蘇る。同時に、心に大きな不安がのしかかる。

(お父さんがこんな状況で、借金で首輪回らなくなっている状況で……娘の私が、恋なんてしてる場合じゃない)

自分の夢を諦めて、田舎に帰る身なのだ。新しい仕事も、今まで全く触れたことのない職種だ。
心身ともに余裕がない。なにより、こんな状況を知ったら、久登がどう思うだろう。

(優しいから受け止めようとしてくれるような気がする。だけど彼に、自分の家の心配をかけたくない)