敏腕パイロットは空の上のシェフを愛す~愛おしい双子を添えて~


突然背後から名前を呼ばれて、花梨の肩が反射的に跳ね上がった。
よく知る声に、恐る恐る振り返る。

『久登さん……!』
『久しぶり。花梨さん』

そこに立っていたのは、濃紺のロングコートを羽織った久登だった。
彼はいつも通り、冷静な表情で花梨をまっすぐ見つめていた。
かすかに息を弾ませ、頬と耳の淵がほんのりと赤く色づいている。
走って追いかけてくれたのだろう。コートの襟の隙間から、白いシャツと細いネクタイが覗いている。仕事帰りだと一目で分かった。
花梨は信じられない気持ちで久登を見る。彼はもうてっきり、お店に愛想を尽かせ、会えないものばかり思っていたのに。
ようやく恋心を捨てられそうだと思ったのに、彼の姿を見て呆気なく最熱してしまう。

『ずっと、君に会いたかったんだが、仕事でなかなかタイミングが合わなくて……』
『久登、さん』
『この前、君が店を辞めると聞いてから、いてもたってもいられなかった。今日は仕事で営業時間に行けなかったんだが、もしかしたら
君がいるかもしれないと思って……本当に、最後の最後で会えてよかった』
久登は深いため息を吐いたあと、表情を和らげる。
その顔はどこか安堵を滲ませている。心から自分に会いたいと思ってくれたのだと、花梨は温かい気持ちになった。

『ずっと、君のことが気になっていた。好き、なんだと思う』
『えっ……?』

突然告げられた愛の言葉に、思わず花梨は素っ頓狂な声を上げた。
久登も久登で、彼女の心底驚いた顔を見て、少し気まずそうに視線を逸らす。

『俺から好意を持たれるのは、嫌か?』
『い、嫌なわけがない! です……!』

つい大声を出してしまったのを恥じ、急いで口をつぐむ。
だが、彼に変な誤解はされたくなかった。
憧れの男から〝好き〟だと伝えられ、嬉しい反面、これは現実なのだろうかと未だに信じられない気持ちの方が大きい。

『あんまり、見ないでくれ』

久登は恥ずかしさからか、くしゃっと破顔する。その無邪気な笑みに、心臓が大きく跳ね上がった。

(久登さんの笑った顔、初めて見たかも)