敏腕パイロットは空の上のシェフを愛す~愛おしい双子を添えて~


花梨も大体話の内容を予測していたというものの、内容は遥かに残酷だった。
父が経営している町工場は、すでに慢性的な赤字を抱え、倒産寸前の状態にあること。
資金繰りが立ち行かず、これまで親戚中に頭を下げて金を借りていたようだ。

『恵一さんは、もう長くはないかもしれない。そうなると、借金が娘のあなたに肩代わりされてしまうかもしれない。今のうちに、現状を把握しておいた方がいい。私も、手伝うから』

叔母の言葉に、視界がぐらりと揺れた。
父親に対して呆れや悲しみといった複雑な感情が、心を渦巻く。
だがそれ以上に、何もかも父一人に抱えこませてしまった罪悪感に、押しつぶされそうだ。

(お父さん、私には言えなかったのかな……)

弱音を吐きたくても吐けず、娘の夢を支える立場であり続けようとした父の気持ちに、胸がきつく締めつけられた。
――もう、迷う理由はない。店を辞めよう。
花梨は一刻も早く田舎に戻り、父と祖母を支えるために、現実的に給料の安定した職に就くと決めた。
料理人の仕事は好きだ。愛している。誇りも、夢も、確かにあった。
けれど、安定した収入にはほど遠い。自分の生活もギリギリの状態で家族を守るなんて、到底できない。

(お父さん、ごめんね。私、必ずなんとかするから)

ほんの少し前まで、確実に心の中心にあった大きな夢に、無理やり蓋をする。
花梨に迷いはなかった。けれど、帰りの電車でぽつぽつと、斑点のように久登との思い出が蘇る。
憧れに近い感情だったはずなのに、こうして彼ばかりが浮かんでくるのは、ちゃんと異性として〝好きだった〟からだ。

『私、久登さんのこと、こんなに好きだったんだ……』

人がまばらな列車に、花梨を見る者はいない。
だから彼女は、声を殺してひっそりと涙を流した。