敏腕パイロットは空の上のシェフを愛す~愛おしい双子を添えて~


――わざわざ来店してくれた久登に、自分のことで、不快な思いをさせてしまった。
花梨はそんな罪悪感を抱くとともに、彼への気持ちを大きく膨らんでいく。
男から人目もはばからず守ってくれ、そしてはっきりと、周りに注意してくれた。
きっと自分じゃなくても、きっと彼は正義感の強い性格で先ほどのように行動したのだろう。だがそれでも、自分を当たり前のように守ってくれたことがこの上なく嬉しかった。

(私、やっぱり久登さんのこと……好き。すごく)

だが人生は思うようにはいかないものだ。会いたい気持ちばかりが大きくなるのに、久登はぱたりと来店しなくなってしまった。

(先日の一件で……お店に、幻滅してしまったのかな)

そう思うと、胸がひりつく。
あの夜の出来事が、彼にとって〝二度と足を運びたくない記憶〟になってしまったのだとしたら、その原因の一端が自分にあるのだと考えてしまう。
厨房に立ちながらも、無意識に入口の方へ視線を向ける。ドアが開くたび、心臓が跳ねて、 そしてすぐに落ち着く。その繰り返し。

「……今日も、来ないか」

誰に聞かせるでもなく、小さく呟いてしまう自分に気づいて、花梨は苦笑した。
恋をしないと決めていたはずなのに。夢のために、他のすべてを後回しにしてきたはずなのに。
それでも、久登の姿が見えない夜が続くほど、彼の存在は心の中で大きくなっていった。
忙しいだけかもしれない。家の事情があるのかもしれない。

(一緒に来ていた、あの女性と過ごしているのかな)

ふと無駄な不安が襲ってきて、息が苦しくなった。
けれど、彼に確かめる術はない。久登との接点は、ONODERAの中でしかないのだから。

(分かってる。もう、久登さんのことは考えちゃだめだって)

彼へを忘れようと言い聞かせる日々を一か月ほど続いた、とある日の午後――。
 



『お父さんが、倒れた……?』