花梨は、声の震えを悟られないよう、口角をぐっと上げる。
しかし男はそれをいいように受け取ったのか、下卑た笑みを浮かべ、腕を掴んだまま手を離そうとしない。
「笑うともっと可愛いねぇ~! おーい、オーナー!」
張り上げられた声に、店内の空気がさらに張り詰めた。
「この子に一杯出してあげてよ。シャンパンだよ! シャンパン!」
冗談めかした口調とは裏腹に、その手の力は緩まらない。
花梨は、掴まれた腕に力を入れすぎないよう注意しながら、背筋を伸ばした。
(ここで感情を出しちゃいけない。騒いじゃだめ)
それがこの一流の店で働く者としての、暗黙の了解だった。
助けを求めるように視線を動かしても、誰とも目が合わない。
先ほどからオーナーは別の客の対応に追われ、他のスタッフも忙しそうに動いている。
今はそれどころではないと分かっている。分かっているのだが――。
(辛い。だれか、助けて……)
『須天さま、いらっしゃいませ』
スタッフの声に、花梨ははっとした。
顔を上げると、常連の須天がやってきていた。しかもこんなときに、よりによって久登ともう一人、自分と同じくらいの年頃の女性を連れて。
すぐに久登と目が合い、心臓が大きく跳ね上がる。彼は驚いた表情でこちらを見つめていた。
男性に馴れ馴れしく触られている姿をこんな形で見られてしまい、羞恥心が込み上げる。
(久登さんにだけは、見られたくなかった……)
『おい、姉ちゃん。よそ見して聞いてんの~? ここ座ってって言ってるでしょ』
俳優の角田はそんな彼女に気づくはずもなく、さらに強く腕を引いてきた。
『きゃっ……やめっ……』
角田の方へ体勢を崩した直後、後ろから腕が伸び、角田の太い腕を大きな手が迷いなく掴む。
『さっきから嫌がってるだろ。今すぐ手を離せよ』
しかし男はそれをいいように受け取ったのか、下卑た笑みを浮かべ、腕を掴んだまま手を離そうとしない。
「笑うともっと可愛いねぇ~! おーい、オーナー!」
張り上げられた声に、店内の空気がさらに張り詰めた。
「この子に一杯出してあげてよ。シャンパンだよ! シャンパン!」
冗談めかした口調とは裏腹に、その手の力は緩まらない。
花梨は、掴まれた腕に力を入れすぎないよう注意しながら、背筋を伸ばした。
(ここで感情を出しちゃいけない。騒いじゃだめ)
それがこの一流の店で働く者としての、暗黙の了解だった。
助けを求めるように視線を動かしても、誰とも目が合わない。
先ほどからオーナーは別の客の対応に追われ、他のスタッフも忙しそうに動いている。
今はそれどころではないと分かっている。分かっているのだが――。
(辛い。だれか、助けて……)
『須天さま、いらっしゃいませ』
スタッフの声に、花梨ははっとした。
顔を上げると、常連の須天がやってきていた。しかもこんなときに、よりによって久登ともう一人、自分と同じくらいの年頃の女性を連れて。
すぐに久登と目が合い、心臓が大きく跳ね上がる。彼は驚いた表情でこちらを見つめていた。
男性に馴れ馴れしく触られている姿をこんな形で見られてしまい、羞恥心が込み上げる。
(久登さんにだけは、見られたくなかった……)
『おい、姉ちゃん。よそ見して聞いてんの~? ここ座ってって言ってるでしょ』
俳優の角田はそんな彼女に気づくはずもなく、さらに強く腕を引いてきた。
『きゃっ……やめっ……』
角田の方へ体勢を崩した直後、後ろから腕が伸び、角田の太い腕を大きな手が迷いなく掴む。
『さっきから嫌がってるだろ。今すぐ手を離せよ』


