好きになった人は、みんなのアイドルで 3

「朝比奈さん、もっとアクセル踏んで」

「え!無理です!早いです!怖いです!」

「大丈夫ですよ、20km/hは出しましょう」

「え、え、怖いです……」

ーー
ぐったりしてお昼を食べていると
「ここ、いいですか?」
と斜め向かいの席を指さされる。

「あ、どうぞ」
昨日話しかけてくれた男の子。

「朝比奈さんは、大学生ですか?」
話し掛けられる。
待って、なんで名前……。

「え、名前」と小さな声で驚くと
鞄から飛び出していた教習所の手帳を指さす。

ほっとして笑う。
「あ、大学生です」

「すみません、フェアじゃないですね」と呟いて
男の子も手帳を見せてくれる。
「矢田 海斗(やだ かいと)です」

人懐っこい笑顔が可愛い人だ。

「……矢田くんも、大学生ですか?」

「うん、俺、東都大学の2年生です」
「あと、下の名前で呼ばれる方が好きなんで、海斗でいいです」

「あ……じゃあ、海斗くん」
「私も2年生です。明凌大です」

「明凌なの?頭いいね」
同じ学年だと分かると、急にタメ口になる海斗くん。
距離の詰め方が上手い。
「午後も実技?それとも学科?」

「13時から実技1コマ受けて、その後学科2つです」

「あ、俺も一緒だ」
「じゃあまた後でね、朝比奈さん」

お昼を食べ終えた海斗くんが
ひらひらっと手を振って席を立つ。

「うん、またあとで」
つられて手を振り返す。

……なんか、不思議な人だったな。
話せる人ができたことで、少し教習所が楽しみになった。