「……。なぜ? 君が……」
愛人のナターシャだ。
「必要だろうと思って、呼んでおきました」
にべなくエマが言い放つ。
ナターシャはかつかつと早歩きでドリアンのもとへと歩み寄ると、容赦なくその頬に平手打ちを食らわした。
バチン!
静謐な植物園に、とても響いてはいけないほどの大音量が鳴る。
「ふざけんじゃないよ! 金づるだから仲良くしてやっていたのに、なんてざまだい! 二度と顔を見せるんじゃないよ」
去り際にドリアンの腹を蹴っ飛ばしてくことも忘れない。
「……。エマ?」
キャサリンが小声で問えば、簡潔な答えがすぐに返って来る。
「職業柄、護身術を覚えているようです」
「いい気味ね」
地面に這いつくばり、みっともなくソフィアの足元にすがるドリアン。
そんなドリアンを、ソフィアは汚物を見るような目で見下ろした。
「待ってくれ……ソフィア。僕が悪かったんだ。……だから、どうか」
「もう遅いのです。さようなら」
ぺちゃり。
植物園の中にいる鳥が、糞を落とす。
それはちょうどドリアンの頭の上に落ちる。
「ぷっ」
笑ったのは見知らぬ観光客だ。
「ちょっと、やだ失礼よ」
そう注意する女性も、声が震えている。
笑いをこらえられないといった様子だ。
恥辱で顔を真っ赤にしたドリアンが、その場から立ち去ろうとして、勢いあまって転んだ。
今度こそ場に盛大な笑いが起きていた。
✿✿✿❀✿✿✿
夕刻、帰り際にソフィアが短く言葉を残していった。
「キャサリン嬢」
「なあに?」
「次は、自分で解決できるようになります」
きっぱりとそう言った。
キャサリンも答える。
「そうなれるように応援していますわ」
ソフィアが深く一礼して、去っていく。
その背中を見送りながら、エマは静かに口を開く。
「またお一人、仲間が増えましたね」
「そうね」
キャサリンが空を見上げた。
夕焼けが、王都をやわらかく染めている。
「さて、次へ参りましょうか」
「はい、お嬢様」
2人は連れ立って、歩き出した。
✿✿✿❀✿✿✿
その後の処理は速やかに進んだ。
ドリアンは言い逃れを試みたが、書状と証言の前では無意味だった。
院内に噂を流そうとしていた協力者も、エマがすでに手を打っていたために動けなかった。
ドリアンは社交界での信用を完全に失い、ソフィアのもとを去った。
数日後、アルバートがキャサリンの屋敷を訪ねてきた。
「……何とお礼を申し上げればよいか」
老研究者は、深く頭を下げた。
「クラリス嬢の件に続き、今回も……本当にありがとうございました」
「いいえ。クラリスからの紹介でしたから」
キャサリンがさらりと答えると、アルバートが顔を上げて微笑んだ。
「クラリス嬢の言う通りの方でしたよ。頼りになると」
「あの子は言いすぎですわ」
それでもキャサリンの表情は、悪くなかった。
「ソフィア嬢は今、どんな様子ですか?」
「傷ついてはおります。当然ですが……それでも、自分で決めたことだからと前を向く準備をしているようです」
アルバートが穏やかな目で続けた。
「前を向いておりますよ。あの子らしい」
キャサリンも静かにうなずいた。
愛人のナターシャだ。
「必要だろうと思って、呼んでおきました」
にべなくエマが言い放つ。
ナターシャはかつかつと早歩きでドリアンのもとへと歩み寄ると、容赦なくその頬に平手打ちを食らわした。
バチン!
静謐な植物園に、とても響いてはいけないほどの大音量が鳴る。
「ふざけんじゃないよ! 金づるだから仲良くしてやっていたのに、なんてざまだい! 二度と顔を見せるんじゃないよ」
去り際にドリアンの腹を蹴っ飛ばしてくことも忘れない。
「……。エマ?」
キャサリンが小声で問えば、簡潔な答えがすぐに返って来る。
「職業柄、護身術を覚えているようです」
「いい気味ね」
地面に這いつくばり、みっともなくソフィアの足元にすがるドリアン。
そんなドリアンを、ソフィアは汚物を見るような目で見下ろした。
「待ってくれ……ソフィア。僕が悪かったんだ。……だから、どうか」
「もう遅いのです。さようなら」
ぺちゃり。
植物園の中にいる鳥が、糞を落とす。
それはちょうどドリアンの頭の上に落ちる。
「ぷっ」
笑ったのは見知らぬ観光客だ。
「ちょっと、やだ失礼よ」
そう注意する女性も、声が震えている。
笑いをこらえられないといった様子だ。
恥辱で顔を真っ赤にしたドリアンが、その場から立ち去ろうとして、勢いあまって転んだ。
今度こそ場に盛大な笑いが起きていた。
✿✿✿❀✿✿✿
夕刻、帰り際にソフィアが短く言葉を残していった。
「キャサリン嬢」
「なあに?」
「次は、自分で解決できるようになります」
きっぱりとそう言った。
キャサリンも答える。
「そうなれるように応援していますわ」
ソフィアが深く一礼して、去っていく。
その背中を見送りながら、エマは静かに口を開く。
「またお一人、仲間が増えましたね」
「そうね」
キャサリンが空を見上げた。
夕焼けが、王都をやわらかく染めている。
「さて、次へ参りましょうか」
「はい、お嬢様」
2人は連れ立って、歩き出した。
✿✿✿❀✿✿✿
その後の処理は速やかに進んだ。
ドリアンは言い逃れを試みたが、書状と証言の前では無意味だった。
院内に噂を流そうとしていた協力者も、エマがすでに手を打っていたために動けなかった。
ドリアンは社交界での信用を完全に失い、ソフィアのもとを去った。
数日後、アルバートがキャサリンの屋敷を訪ねてきた。
「……何とお礼を申し上げればよいか」
老研究者は、深く頭を下げた。
「クラリス嬢の件に続き、今回も……本当にありがとうございました」
「いいえ。クラリスからの紹介でしたから」
キャサリンがさらりと答えると、アルバートが顔を上げて微笑んだ。
「クラリス嬢の言う通りの方でしたよ。頼りになると」
「あの子は言いすぎですわ」
それでもキャサリンの表情は、悪くなかった。
「ソフィア嬢は今、どんな様子ですか?」
「傷ついてはおります。当然ですが……それでも、自分で決めたことだからと前を向く準備をしているようです」
アルバートが穏やかな目で続けた。
「前を向いておりますよ。あの子らしい」
キャサリンも静かにうなずいた。

