イケオジアイドル野宮のスマイル、そしてブロマンス

 四月の昼。私は兄の亮が住んでいるマンションのリビングのソファに座り、煌びやかな着物を着て歌番組に出演している兄たちをしみじみ確認した後、スマホを眺めていた。眺めていると、あるイベントの番外編みたいなニュースの記事が目に入る。

『演歌アイドルグループ、天界の清純花(せいじゅんばな)、野宮 彰(四十歳)親知らず抜歯で頬が腫れた!』

 私の憧れの人、彰さんの記事が!

頬が腫れている写真も添えて書かれていた。そんな日常の出来事でも記事となり話題となる程に知名度の高いふたりは、野宮 彰、八幡 亮(三十五歳)の、和のイメージで活動している二人組ユニットである。

 先日、彰さんは右下水平埋伏親知らず抜歯の際、結構深くに親知らずがあったために想像よりも腫れ、記事に載っているイベントの日もまるで鶏の卵が頬に埋まっている感じに腫れていた。

「彰さんのこと、書いてある……」

 そう呟くと、彰さんがソファの後ろからスマホを覗き込んできた。距離が近くなるとドキッとして、私の呼吸が荒くなる。

――私の荒くなった鼻息、彰さんにバレてないかな? バレないように、平常心、平常心!

「ん? これはあまりよろしくない……」と彰さんが怪訝そうに低めの声で呟いた。

「頬が腫れてる写真載せられるのって微妙だよね……」と私は言う。

「いや、別に自分の日常を記事にされたり、こうやって腫れの写真を載せられているのも不快な点はひとつもない。だが、これは何とかしなくては」

 彰さんは、ニュースの記事に書かれているひとつのコメントを指さした。

『野宮 彰が親知らず抜歯で入院した時、八幡 亮は仕事に影響がでるとかで野宮に罵声浴びせたらしいよ』と。

「えっ、嘘だ!」
「本当に、何を言う。むしろ亮は――」

 私が叫ぶと彰さんは深く頷いた。

「茜、彰兄、どうしたの?」

 記事を読みながら不快な表情をしていた彰さん。心配した表情で亮兄は私の横に座ってきた。そしてスマホを覗き込む。ちなみに私の兄は彰さんのことをとても尊敬しているので、実の兄ではないが〝彰兄〟と呼んでいる。

「亮のことが悪く書かれていた。自分の公式アカウントで真実を語る!」
「彰兄が怒るの珍しい……ほっときなよ、別に僕は傷ついてないし。そんなデマ、すぐに収まるって!」
「いやいや、自分は世間に背を向けられてもいいが、亮は世間に愛されていてほしい。それに亮は親知らず抜歯の時には細かな気配りをしてくれた。感謝しかない!」 

 そう。普段完璧で恐れ知らずそうな彰さんが親知らずを抜歯するとなった時、予想外に「不安だ」と弱音を吐いていた。

彰さんも弱みを見せる可愛い一面があるのか……。と、私よりも七歳年上の彰さんだけど、その時は可愛く見えすぎて「彰さんを守りたい!」と、母性のような感覚が湧いてきていた。

そして、いつも亮兄は彰さんに励まされている側なのに、その時は励ます側になっていた。抜歯後のフォローも細かな気遣いでナイスだった。私はその光景を眺めながら、ときめいていた。深く愛おしいブロマンス味を感じながら。

 ふと、その時に丁寧に脳の中にしまい込んだ記憶を思い出す。