トップアイドルは白衣の天使に恋をするsecond

すると森崎さんが時計を見て、ぱんっと軽く手を叩く。

「ほな、休憩終わり」

「午後から実技評価入ります」

その瞬間。

育成ナースたちの空気が変わる。

さっきまでより、明らかに緊張感が強くなる。

「今回まず見るんは」

「基礎アセスメント」

「急変時初動」

「ICU連携」

「あとチームコミュニケーション」

森崎さんが資料をめくる。

「別に今完璧求めてません」

「今の実力見るだけなんで」

そう言いながらも。

その目は完全に“指導者”だった。

甘さはない。

「実際の現場想定でやります」

「だから普通にしんどいと思ってください」

育成メンバーたちが小さく息を呑む。

すると神波さんが笑った。

「まぁ気楽にいきましょう。死ぬわけじゃないんで」

「神波さんが言うたらなんか怖いわ」

森崎さんのツッコミで少し空気が和む。

でも私は、その横で資料を見ながら少し考えていた。

——橘さん。

多分かなり出来る。

知識も経験もある。

動きも悪くないはず。

でも。

森崎さんたちが言ってた“協調性”。

そこがどう出るんだろう。

すると。

「一ノ瀬さん」

隣から声。

橘さんだった。

「はい?」

「……私、多分言い方きつい時あります」

突然の言葉に少し驚く。

橘さんは視線を逸らしたまま続けた。

「別に悪気あるわけじゃないんですけど」

「現場入ると余計に」

その声は少しだけ小さかった。

私は静かに聞く。

「前の病院でも、それで結構揉めたので」

そこで少しだけ苦笑する。

「だから多分、扱いづらいと思います」

その言葉に。

なんとなく分かった。

この人、自分の欠点をちゃんと理解してる。

理解してるからこそ、余計苦しいんだ。

私は少しだけ笑った。

「私も、結構頑固だよ」

「……え?」

橘さんが意外そうにこっちを見る。

「だから多分大丈夫」

そう返すと。

橘さんが一瞬だけ目を丸くした。

その時。

「おー珍しい」

また後ろから声。

振り返ると森崎さん。

「橘さんがもう心開き始めてる」

「開いてません」

即答。

しかも真顔。

私は思わず吹き出してしまう。

すると橘さんが少しだけ気まずそうな顔をした。

……あ。

今。

ほんのちょっとだけ表情柔らかくなった。

そんなことを思っていると。

「ほな移動しましょか」

森崎さんが前を歩き始める。

私たちはその後を追って、シミュレーションルームへ向かった。

廊下を歩きながら、育成メンバーたちの空気はどんどん静かになっていく。

緊張してるんだ。

当然だと思う。

全国トップクラスの指導者陣に見られながら評価される。

しかも、ただの座学じゃない。

実践。

“動けるか”を見られる。

シミュレーションルームへ入る。

そこは、本物のICUそっくりだった。

人工呼吸器。

シリンジポンプ。

モニター。

救急カート。

全部、本番仕様。

その空気だけで自然と背筋が伸びる。

すると森崎さんが、ふっと笑った。

「ちなみに」

「ここ、かなり本気仕様です」

嫌な予感しかしない。

「患者役の人形、最新のすっげぇやつ入れてます」

「え?」

「普通に人間相手にしてる感覚になります」

育成ナースたちの顔が引きつる。

神波さんが横で笑ってる。

「リアル大事ですからねぇ」

そして。

森崎さんが全員を見る。

「じゃ、始めましょか」

「日本一しんどい育成プログラム」

その瞬間。

空気が一気に“現場”へ変わった。