「あと、もう一個大事な話あります」
森崎さんが資料をめくりながら言う。
さっきまで少し和んでいた空気が、また引き締まった。
「基本的には指導者全員で皆さん見ます」
「現場もICUも、誰が見るとか固定せず全員で育てる形です」
そこまでは想像していた。
でも。
「ただ、一応“担当指導者”はつけます」
その言葉に、育成ナースたちが少し姿勢を正す。
森崎さんがホワイトボードへ名前を書いていく。
「人数の関係で、俺と斉賀さんが二人ずつ」
「一ノ瀬さんと神波さんは一人ずつ担当持ってもらいます」
私も小さく頷いた。
すると森崎さんが振り返る。
「まず神波さんは真壁くん担当で」
「はいよ〜」
神波さんが気さくに返事をする。
「斉賀さんは朝比奈くんと宮原さん」
「了解です」
相変わらず静かな声。
「俺は——」
森崎さんが二人の男性ナースの名前を呼ぶ。
その二人が少し緊張した顔で頷く。
そして最後。
森崎さんの視線がこちらへ向いた。
「一ノ瀬さんは……」
資料へ目を落とす。
「橘 梨々花(たちばな りりか)さん、お願いします」
その名前と同時に。
向かい側に座っていた女性が静かに顔を上げた。
ショートカット。
切れ長の目。
綺麗な人、だと思った。
年齢は多分、私より少し上。
落ち着いた雰囲気で、さっきからほとんど表情が変わっていない。
どちらかというと近寄りがたい空気。
橘さんは私を見ると、小さく会釈した。
「……よろしくお願いします」
声も淡々としている。
私は慌てて頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
でも。
返ってきたのはそれだけだった。
会話が、続かない。
少しだけ気まずい空気。
そのまま橘さんは視線を資料へ戻してしまう。
……あれ。
私は一瞬だけ固まった。
なんというか。
距離が遠い。
もちろん初対面だし当たり前なんだけど。
他のチームが少しずつ打ち解け始めている分、余計にそう感じた。
すると隣で神波さんが担当の真壁さんと笑いながら話している。
森崎さんのところも、もう普通に会話が始まっていた。
斉賀さんのところは静かだけど、それでもちゃんと空気が柔らかい。
……私だけ、なんか硬い。
そんなことを考えていると。
「橘さん、何か聞きたいことあります?」
私はとりあえず声をかけてみる。
すると橘さんは少しだけ顔を上げた。
「……特には」
短い。
淡々。
そこでまた会話が止まる。
う、うわぁ……。
思わず心の中で焦る。
どうしよう。
苦手とかではない。
でも明らかに“簡単に距離を縮めるタイプ”ではなさそうだった。
森崎さんが資料をめくりながら言う。
さっきまで少し和んでいた空気が、また引き締まった。
「基本的には指導者全員で皆さん見ます」
「現場もICUも、誰が見るとか固定せず全員で育てる形です」
そこまでは想像していた。
でも。
「ただ、一応“担当指導者”はつけます」
その言葉に、育成ナースたちが少し姿勢を正す。
森崎さんがホワイトボードへ名前を書いていく。
「人数の関係で、俺と斉賀さんが二人ずつ」
「一ノ瀬さんと神波さんは一人ずつ担当持ってもらいます」
私も小さく頷いた。
すると森崎さんが振り返る。
「まず神波さんは真壁くん担当で」
「はいよ〜」
神波さんが気さくに返事をする。
「斉賀さんは朝比奈くんと宮原さん」
「了解です」
相変わらず静かな声。
「俺は——」
森崎さんが二人の男性ナースの名前を呼ぶ。
その二人が少し緊張した顔で頷く。
そして最後。
森崎さんの視線がこちらへ向いた。
「一ノ瀬さんは……」
資料へ目を落とす。
「橘 梨々花(たちばな りりか)さん、お願いします」
その名前と同時に。
向かい側に座っていた女性が静かに顔を上げた。
ショートカット。
切れ長の目。
綺麗な人、だと思った。
年齢は多分、私より少し上。
落ち着いた雰囲気で、さっきからほとんど表情が変わっていない。
どちらかというと近寄りがたい空気。
橘さんは私を見ると、小さく会釈した。
「……よろしくお願いします」
声も淡々としている。
私は慌てて頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
でも。
返ってきたのはそれだけだった。
会話が、続かない。
少しだけ気まずい空気。
そのまま橘さんは視線を資料へ戻してしまう。
……あれ。
私は一瞬だけ固まった。
なんというか。
距離が遠い。
もちろん初対面だし当たり前なんだけど。
他のチームが少しずつ打ち解け始めている分、余計にそう感じた。
すると隣で神波さんが担当の真壁さんと笑いながら話している。
森崎さんのところも、もう普通に会話が始まっていた。
斉賀さんのところは静かだけど、それでもちゃんと空気が柔らかい。
……私だけ、なんか硬い。
そんなことを考えていると。
「橘さん、何か聞きたいことあります?」
私はとりあえず声をかけてみる。
すると橘さんは少しだけ顔を上げた。
「……特には」
短い。
淡々。
そこでまた会話が止まる。
う、うわぁ……。
思わず心の中で焦る。
どうしよう。
苦手とかではない。
でも明らかに“簡単に距離を縮めるタイプ”ではなさそうだった。

