気づけば、長かった一日も終わろうとしていた。
初めての大阪中央医療センター。
初めてのICU。
初めて一緒に働くスタッフ。
緊張しっぱなしだったはずなのに、終わってみれば一瞬だった気がする。
更衣室でスクラブを脱ぎながら、私は小さく息を吐いた。
疲れてないわけじゃない。
でも不思議と嫌な疲れじゃなかった。
ロッカーを閉める。
その時スマホが震えた。
画面を見ると。
——陽貴くん
その名前を見た瞬間、自然と口元が緩む。
私は少し急ぎ足で病院を出ると、そのまま電話へ出た。
「もしもし」
『もしもし』
聞こえてきた優しい声。
それだけで、一気に力が抜けそうになる。
「…陽貴くん」
そう返すと、電話の向こうで小さく笑う気配がした。
『おつかれさま、紗凪』
その何気ないやり取りが、胸に染みる。
私は病院からマンションまでの道をゆっくり歩き始めた。
夜の大阪は思っていたより明るい。
車の音。
人の声。
知らない街なのに、不思議ともう少しだけ馴染んできた気がする。
『どうだった? 初日』
陽貴くんが優しく聞いてくれる。
私は少しだけ空を見上げた。
「……すごかった」
『うん?』
「病院もICUもレベル高くて」
「みんなめちゃくちゃ動けるし」
「空気感もすごい」
話し始めると、自然と今日のことが溢れてくる。
急変対応。挿管。
若手看護師たち。
ICUの空気。全部。
陽貴くんは途中で遮ることなく、ずっと静かに聞いてくれていた。
そして。
『紗凪、楽しそう』
その言葉に、私は少しだけ目を見開く。
「……え」
『声に覇気がある』
私は少しだけ笑った。
「……怖かったんだ、最初は」
『うん』
「でもね」
「ここで頑張りたいって思えた」
そう言うと。
電話の向こうで、陽貴くんが安心したみたいに息を吐いた。
『そっか』
『よかった』
その声が優しくて、また少し泣きそうになる。
私は誤魔化すように話題を変えた。
「陽貴くんは?」
『俺?』
「撮影終わったの?」
『さっき終わった』
「お疲れさま」
『ありがと』
少しの沈黙。
すると突然。
『……で?』
「ん?」
『迎えに来た主任さん』
「森崎さん?」
『イケメン?』
思わず吹き出す。
「まだ言うの?」
『大事』
「……まぁ、顔はいいかもしれない」
正直に言った瞬間。
電話の向こうが静かになる。
「あれ」
『無理』
「え?」
『今すぐ大阪行きたい』
真剣な声すぎて、私は笑いが止まらなくなる。
「大丈夫だよ」
『何が』
「ちゃんと陽貴くんが好きだから」
するとまた数秒沈黙。
そして。
『……好き』
低く甘い声。
心臓が跳ねる。
『離れてると余計好きになるんだけど』
「っ……」
『責任取って』
「知らない……」
耳まで熱い。
電話越しなのに、こんなにドキドキする。
マンションへ着く。
私はエレベーターへ乗り込みながら、小さく笑った。
「でもね」
『うん?』
「ネックレスのおかげで陽貴君が近くにいるって思えたから
すごく頑張れたんだよ…」
本音。
その瞬間電話の向こうが静かになる。
そして。
『……それ反則』
「え?」
『そんなこと言われたら、もっと頑張るしかなくなるじゃん』
その声が優しすぎて。
私はまた、胸元のネックレスへ触れた。
離れてる。
寂しい。
でも。
ちゃんと繋がってる。
そう思えた、初日の夜だった。
初めての大阪中央医療センター。
初めてのICU。
初めて一緒に働くスタッフ。
緊張しっぱなしだったはずなのに、終わってみれば一瞬だった気がする。
更衣室でスクラブを脱ぎながら、私は小さく息を吐いた。
疲れてないわけじゃない。
でも不思議と嫌な疲れじゃなかった。
ロッカーを閉める。
その時スマホが震えた。
画面を見ると。
——陽貴くん
その名前を見た瞬間、自然と口元が緩む。
私は少し急ぎ足で病院を出ると、そのまま電話へ出た。
「もしもし」
『もしもし』
聞こえてきた優しい声。
それだけで、一気に力が抜けそうになる。
「…陽貴くん」
そう返すと、電話の向こうで小さく笑う気配がした。
『おつかれさま、紗凪』
その何気ないやり取りが、胸に染みる。
私は病院からマンションまでの道をゆっくり歩き始めた。
夜の大阪は思っていたより明るい。
車の音。
人の声。
知らない街なのに、不思議ともう少しだけ馴染んできた気がする。
『どうだった? 初日』
陽貴くんが優しく聞いてくれる。
私は少しだけ空を見上げた。
「……すごかった」
『うん?』
「病院もICUもレベル高くて」
「みんなめちゃくちゃ動けるし」
「空気感もすごい」
話し始めると、自然と今日のことが溢れてくる。
急変対応。挿管。
若手看護師たち。
ICUの空気。全部。
陽貴くんは途中で遮ることなく、ずっと静かに聞いてくれていた。
そして。
『紗凪、楽しそう』
その言葉に、私は少しだけ目を見開く。
「……え」
『声に覇気がある』
私は少しだけ笑った。
「……怖かったんだ、最初は」
『うん』
「でもね」
「ここで頑張りたいって思えた」
そう言うと。
電話の向こうで、陽貴くんが安心したみたいに息を吐いた。
『そっか』
『よかった』
その声が優しくて、また少し泣きそうになる。
私は誤魔化すように話題を変えた。
「陽貴くんは?」
『俺?』
「撮影終わったの?」
『さっき終わった』
「お疲れさま」
『ありがと』
少しの沈黙。
すると突然。
『……で?』
「ん?」
『迎えに来た主任さん』
「森崎さん?」
『イケメン?』
思わず吹き出す。
「まだ言うの?」
『大事』
「……まぁ、顔はいいかもしれない」
正直に言った瞬間。
電話の向こうが静かになる。
「あれ」
『無理』
「え?」
『今すぐ大阪行きたい』
真剣な声すぎて、私は笑いが止まらなくなる。
「大丈夫だよ」
『何が』
「ちゃんと陽貴くんが好きだから」
するとまた数秒沈黙。
そして。
『……好き』
低く甘い声。
心臓が跳ねる。
『離れてると余計好きになるんだけど』
「っ……」
『責任取って』
「知らない……」
耳まで熱い。
電話越しなのに、こんなにドキドキする。
マンションへ着く。
私はエレベーターへ乗り込みながら、小さく笑った。
「でもね」
『うん?』
「ネックレスのおかげで陽貴君が近くにいるって思えたから
すごく頑張れたんだよ…」
本音。
その瞬間電話の向こうが静かになる。
そして。
『……それ反則』
「え?」
『そんなこと言われたら、もっと頑張るしかなくなるじゃん』
その声が優しすぎて。
私はまた、胸元のネックレスへ触れた。
離れてる。
寂しい。
でも。
ちゃんと繋がってる。
そう思えた、初日の夜だった。

